ニューヨークの地下鉄で体験した小さなパラダイム転換君はパラダイム転換を体験したか――『7つの習慣』より

パラダイム転換は、必ずしもよい方向だけとは限らない。しかし、パラダイム変換によって、ものの見方が別の見方へ変わり、大きな変化の原動力になることは間違っていないのである。まずはニューヨークの地下鉄で体験した小さなパラダイム転換をご紹介しよう。

» 2009年08月26日 18時30分 公開
[スティーブン・R・コヴィー(訳:ジェームス・スキナー、川西茂),フランクリン・コヴィー・ジャパン]

苦境の時代にこそ原則(プリンシプル)の力

 パラダイム転換――。インターネットなどの情報技術に発展により、時代の流れが速くなったと言われる現代。折しも、昨年秋ごろの世界的な金融危機にその流れはさらに加速しています。経済的な苦境を脱するため、ありとあらゆる戦略や戦術が語られてきました。しかし、この未曾有の時代に本当に必要なものとはなんでしょうか? 市場環境や状況がいかに変化しようと、変わることのない、原則・プリンシプルではないでしょうか。絶えず変化し続ける世界に対し、自分自身の中で原則を貫くことが苦境を乗り切る力になるのです。「7つの習慣」と「第8の習慣」は、原則に生きるための確実な羅針盤として、あなたを応援します。


『7つの習慣』(インサイド・アウト)より

 パラダイム転換は、必ずしもよい方向だけとは限らない。すでに述べたように人格主義から個性主義へのパラダイム転換は、真の成功や幸福を生み出す基本的な原則から私たちを遠ざける結果となった。

 しかし、良い方向であろうがなかろうが、一瞬にして起ころうが徐々に起ころうが、パラダイム変換によって、あるひとつのものの見方が別の見方へと移行し、そしてその転換は大きな変化の原動力になる。正しくても間違っていても、私たちのパラダイムこそが私たちの行動や態度の源であり、やがては人間関係のあり方まで決めてしまうものである。

 ある日曜日の朝、ニューヨークの地下鉄で体験した小さなパラダイム転換を、私は忘れることができない。乗客は皆、静かに座っていた。ある人は新聞を読み、ある人は思索にふけり、またある人は目を閉じて休んでいた。すべては落ち着いて平和な雰囲気であった。

 そこに、ひとりの男性が子供たちを連れて車両に乗り込んできた。すぐに子供たちがうるさく騒ぎ出し、それまでの静かな雰囲気は一瞬にして壊されてしまった。

 しかし、その男性は私の隣に座って、目を閉じたまま、周りの状況に全く気がつかない様子だった。子供たちとはといえば、大声を出したり、物を投げたり、人の新聞まで奪い取ったりするありさまで、なんとも騒々しく気に障るものだった。ところが、隣に座っている男性はそれに対して何もしようとはしなかった。

 私は、いらだちを覚えずにはいられなかった。子供たちにそういう行動をさせておきながら注意もせず、何の責任もとろうとはしない彼の態度が信じられなかった。周りの人たちもいらいらしているように見えた。私は耐えられなくなり、彼に向かって非常に控えめに、「あなたのお子さんたちが皆さんの迷惑になっているようですよ。もう少しおとなしくさせることはできないのでしょうか」と言ってみた。

 彼は目を開けると、まるで初めてその様子に気がついたかのような表情になり、柔らかい、もの静かな声でこう返事をした。

 「ああ、ああ、本当にそうですね。どうにかしないと……。たった今、病院から出て来たところなんです。一時間ほど前に妻が……。あの子たちの母親が亡くなったものですから、いったいどうすればいいのか……。子供たちも混乱しているみたいで……」

 その瞬間の私の気持ちが、想像できるだろうか。私のパラダイムは一瞬にして転換してしまった。突然、その状況を全く違う目で見ることができた。違って見えたから違って考え、違って感じ、そして、違って行動した。今までのいらいらした気持ちは一瞬にして消え去った。自分のとっていた行動や態度を無理に抑える必要はなくなった。私の心にその男性の痛みがいっぱいに広がり、同情や哀れみの感情が自然にあふれ出たのである。

 「奥さんが亡くなったのですが。それは本当にお気の毒に。何か私にできることはないでしょうか」

 一瞬にして、すべてが変わった。

 多くの人々は、病気や災害に直面して物事の優先順位が突然変わってしまうようなときや、夫、妻、親、管理者、あるいはリーダーといった新しい役割を引き受けるとき、こうした基本的な考え方の転換を経験する。個性主義というパラダイムを持って行動や態度を変えようとして、何週間、何カ月、何年もの時間を費やしたとしても、物事が違って見えるときに起こる一瞬の大きな変化には比べようもないだろう。日常生活の比較的小さな変化を望んでいるのであれば、行動や態度に働きかけるのが適当だろう。しかし、著しい変化を遂げたいのであれば、パラダイムを変えなければならない。

 ソローの言葉を借りるなら、「悪の“葉っぱ”に斧を向ける人は1000人いても、“根っこ”に斧を向ける者は1人しかいない」ということである。生活の中で大きな変革を遂げようとすれば、行動や態度という「葉っぱ」に心を奪われることなく、その行動や態度の源であるパラダイムという「根っこ」に働きかけなければならないのだ。


 さらに詳しい内容を知りたいという方は、書籍『7つの習慣』をご覧ください。次回は米海軍のフランク・コック隊員が体験したパラダイム転換をご紹介します。


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