「難しいことを分かりやすく説明する能力」は現代のビジネス社会では大変貴重ですが、プロフェッショナル人材を育てるためには、分かりやすく説明するのではなく「考えさせる」ことを目指さなければなりません。
先日あるプロ講師と話をしていて驚いたことがありました。その時の会話を再現しましょう。
吉見さん 僕が今自分の課題と考えているのは、セミナーの中で受講者が「考える」ワークを入れることなんですよ。これがどうもまだうまくできてないんですよね。
開米 えーっ! 吉見さん、あんなにセミナーうまいのに、まだやってないんでしたっけ?
吉見さんというのは本誌で「まだ1人で営業に行っているんですか? 〜2人で始める『ユニット式営業組織」のススメ〜』」を連載している吉見範一さんのこと。中小企業経営者のための「営業を不要にする営業コンサルタント」として知られていて、今や全国各地の商工会議所が開く営業系セミナーで人気ナンバーワンの人物です。
吉見さんのセミナーは何度か見学していますが、今や本当に名人芸の域に達していて、「もはや非の打ち所がない!」とわたしは思っていました。ところが本人は「受講者に考えさせること」を課題と感じていたんですね。
それがきっかけで気がついたのですが、確かにこれは意外に盲点になっているケースがあるようです。吉見さんにそう言われてみると、ほかにも複数の人物から、ヒントをもらったことがありました。
分かりやすく丁寧に関連づけながら、いかに説明するかばかりを考えていましたが、ふと自分のことを考えてみると、身に付けた知識は自分で考えたり苦労したことが多いことに気づきました。ただ、自分で行った部分は無駄や遠回りが多すぎる。教えるには、相手に情報を伝えるばかりでなく、いかに無駄なく考えさせるかが理解させる上で必要なのですね。
そうなんです。以前連載でも書きましたが(「『ティーチング』は『プレゼンテーション』ではありません」)、プレゼンテーションとティーチングは似ているようでも全く違う活動です。
「人前で話をしている」という外見だけを見ると似ていますが、コミュニケーションの性質がまったく違います。その違いが大きく出やすいポイントこそ、今回のテーマである「受講者に考えさせること」なのです。簡単に言うと、
これは180度違うと言っていいぐらいの大きな差で、これをきちんと押さえなければ、実際に使い物になる「人材が育つ」研修はできません。
困るのは、「分かるように説明する」ことができたとしても、「考えさせる」ことができているとは限らないし、逆に「分かりやすい説明」が「考えさせる」上で障害になってしまう場合さえあることです。これは大きな落とし穴なので、十分認識しておきたいところです。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.