「それは違う」を「なるほど」に変えると意識し続けたYさんは、1カ月ほど経って、私にこう話してくれた。
「このチームではボクが一番ベテランで、もちろん、たいていのことはボクがもっとも経験もあるので、メンバーの言ってくることがとても稚拙に感じていました。だから、つい『それは違う』と一刀両断に反応していたけれど、意識して、そして、我慢して、『なるほど』と言い続けていたら、メンバーもよりよく考えるようになってきたし、そもそも最後まできちんと聞けば、意外といいことを言っているものだと気付いたんです。
なんでも自分が分かっていると思い込んで、メンバーの発言をいちいち否定していたけれど、ボクが否定するからメンバーも思考停止になっていたのかもしれない。最初は『なるほど』というだけでも苦労したけれど、メンバーを育てるためにもよりよい仕事をしていくためにも、もっと『なるほど』を多用していきたいと今は思うようになりました」
会議や打ち合わせ、日常の会話でも「部下や後輩が話さない。黙っている」と嘆く上司、リーダーは多いけれど、Yさんのように「なるほど」と受け止めながら聞くこと自体がうまくできていないのかもしれない。人は他者から認められて少しずつ自信が持てるようになる。自信がわけば、アイデアも沸いてくる。
相手の発言をまずは受け止め、「なるほど」「いいね」「ほかには?」「もっと考えてみようよ」と“肯定的”反応し、先を促すことで、部下やメンバーも発言しやすくなる。肯定的に促す。お試しあれ。
グローバルナレッジネットワーク株式会社 人材教育コンサルタント/産業カウンセラー。
1986年上智大学文学部教育学科卒。日本ディジタル イクイップメントを経て、96年より現職。IT業界をはじめさまざまな業界の新入社員から管理職層まで延べ3万人以上の人材育成に携わり27年。2003年からは特に企業のOJT制度支援に注力している。日経BP社「日経ITプロフェッショナル」「日経SYSTEMS」「日経コンピュータ」「ITpro」などで、若手育成やコミュニケーションに関するコラムを約10年間連載。
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