PayPal Hereって実際どうなの?――コワーキングカフェで聞いてみたPayPal Here導入記

小規模店舗や移動店舗でも、スマートフォンを使ったクレジットカード決済サービスを安価に導入できるPayPal Here。実際の導入・運用のしやすさ、今後の要望についてJellyJellyCafeに聞いた。

» 2013年07月09日 10時00分 公開
[まつもとあつし,Business Media 誠]
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 スマートフォンを利用したモバイル決済サービスの市場が活気を帯びてきた。日本市場では「PayPal Here」「楽天スマートペイ」「Coiney」「Anywhere」といったサービスが登場しており、5月23日にはTwitterの共同創設者ジャック・ドーシー氏が仕掛ける「Square」が三井住友カードをパートナーに日本に上陸。中小店舗がニーズに合ったサービスを選べるようになってきた。

 これまでITmedia/誠では、PayPal Hereを導入したイタリアンレストラン宅配とんかつ弁当などの事例を紹介してきたが、今回は趣向を変えて、コワーキングカフェ「JellyJellyCafe」オーナーの白坂翔氏に、実際の使い勝手や要望をざっくばらんに聞いてみた。

――(聞き手:まつもとあつし) 3月にPayPal Hereを導入して約2カ月(取材時)ですが、どのくらい利用されていますか?

白坂 POPを店内に掲示していますので、「使えるんですか?」と尋ねてこられるお客様は結構いますね。ただJellyJellyCafeは、1時間の利用で500円というキャッシュオンデリバリー方式(カウンターで商品と引き替えにお金を払うシステム)を採用しているので、通常の飲食店のように「帰る時に何千円を払う」ということにはなりません。そのため、カードで払うのは、イベント時の貸し切り料金の支払いや、ドリンクカードのまとめ払いなどのお客様がほとんどです。

 渋谷という場所柄、IT業界のお客様が多いせいでしょうか。「実際使ってみるとどんな感じなのか」という好奇心から利用されるケースが多いように思えます。スマートフォンの画面にサインしてみたいとか、レシートがメールで届く様子を見てみたいとか(笑)

Photo PayPal Hereの決済フロー。金額を入力して支払い方法を選択

Photo カードリーダーにカードを通す

Photo 画面上に手書きでサインをしてもらう(画面=左)。レシートはメールで送信される(画面=右)

―― JellyJellyCafeは「LINE@」もいち早く採用されていますね。

白坂 そうですね。LINE@は導入事例として取り上げられることも多く、PRも含めた先行者メリットがあるといいなという思いが、PayPal Hereに対してもありますね(笑)。LINE@は月額5250円、PayPal Hereは売上の5%(取材当時。7月1日から3.24%に改訂)というコストがかかりますので。JellyJellyCafeでは、店内でさまざまなイベントを仕掛けており、PayPal Hereの導入も、そういったお客さんに趣向を変えて楽しんでもらおうという取り組みの一環です。

Photo ボードゲームはオーナーの趣味の1つで、店内でイベントを開催することも(画面=左)。「人狼」はオーナーのイチオシで、「うそつき人狼」という新装版の開発も手がけた(画面=右)

―― スマホでカード決済ができるサービスが続々と登場していますが、PayPal Hereを選んだ理由は?

白坂 人づてで聞いて導入しました。実は他社のサービスも検討したのですが、当時はシステムやハードウェアの準備中だったのです。PayPal Hereは、ソフトバンクショップで手続きできたのが大きかったと思います。

―― 単にスマホでカード決済ができるというだけでなく、オンライン決済システムとして歴史の長いPayPalと連携しているところもポイントではありませんか。

白坂 そうですね。ただ、私の場合、普段利用している個人アカウントとは別に、先に法人アカウントを取得する必要があり、こちらはソフトバンクモバイルとは別にPayPalとのやり取りがありました。管理の都合上、個人と法人の2つのアカウントを統合したかったのですが、謄本など書類の記載内容など厳密にチェックがあったため、結構手間が掛かりましたね。セキュリティがしっかりしていることの裏返しだとは思いますが。

―― なるほど。1社では手続きが完結しないケースもあるわけですね。

白坂 はい。あと、ソフトバンク回線が入った端末で使ってほしいという説明がありました。それだと、PayPal Hereで決済するための専用スマートフォンやiPadを導入する余裕がない個人のお店などでは、オーナーのプライベート端末を決済に使うことになるので困る場面が出てくるかもしれません。ウチでも、僕の個人端末を利用しているので、僕が外出しているときは、PayPal HereのPOPも引っ込めています(笑)。

―― 高額なCAT(Credit Authorization Terminal:信用照会をするための端末)のリースや、接続回線の用意が必要ないというメリットを生かすためにも、そのあたりは分かりやすい説明がほしいところですね。

Photo リーダー端末の濃い青のパーツをスライドさせるとiPhoneに固定できる

白坂 もう1ついうと、イヤフォンジャックを利用する以上は仕方がないのかもしれませんが、iPhone 5はイヤフォンジャックが端末の下部に配置されているので、ちょっと扱いづらいのが気になっています。リーダー端末のパーツをスライドさせてiPhoneに固定する仕組みがあるようなので、使えないのがちょっと残念でした。

―― ハードウェア面も発展途上といえるのかもしれませんね。モバイル決済市場は競争が激しくなってきていますが、さまざまな面での進化にも期待したいところです。

白坂 店の近所にAppleストアがあるのですが、そこでは早くからiPhoneを利用した決済が取り入れられていました(※Appleは独自の仕組みを採用している)。あんな風にうちの店でも決済ができるなら格好いいなぁ、と思っていたところに、PayPal Hereが登場して「これだ!」と思って導入したので、さらに洗練されたサービスになっていくとうれしいですね。

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 情報感度の高い人や外国人が来店するJellyJellyCafeでも、PayPal Hereという新たな決済手段は少しずつではあるが、定着しつつある様子を見て取ることができた。

 とはいえ、同じ思いを持っている人が少なくないと思うが、筆者はイヤフォンジャックを利用する方法が、スマートデバイスにおけるスマートな最適解とは思っていない。白坂氏の話にもあったように、まだ荒削りな部分があることも否定できないものの、競争が激しくなるということは、利用者にとってはサービスやハードウェアの進化の速度が加速することも期待できるはず。PayPal Here含め今後の各社の動向に注目したい。

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