では、今度は会話を組み立てる能動的な「聞き方」である「聞き出す」(=質問)について見ていきましょう。例えば、次のようなやりとりがあったとします。
上司:「このポスターを印刷に出しといて」
部下:「いつまでですか?」
上司:「明日までにお願いしたいんだけど」
部下:「いつもの花まる印刷で500部でいいんですよね?」
上司:「いやいや、うちは先月から花まる印刷から武蔵野印刷に変わってるから。それから、今月から300部になったよ」
この場面では、部下の質問によって締め切りが明確になり、発注先と印刷部数の変更が分かりました。
質問をしていなければ、納期に間に合わなかったり、発注先や印刷部数を間違えたりと、きっと仕事に支障が出たことでしょう。
ここでの質問は、不足情報を引き出す機能を果たしています。それもふくめて、質問の4つの機能について見ていきましょう。
相手の話を自分がきちんと理解できているかどうか、適宜確認しましょう。相手の話を自分なりにまとめて、「今のお話はこのようなことでしょうか?」などと尋ねます。
不足している情報があれば、質問をして引き出しましょう。お互いの話の文脈が違っていて、相手が重要でないと判断して省略したりしていることがあります。
例えば、相手の話に出てこなくても「納期は通常1カ月ほどですが、問題ないでしょうか?」など、問題になりそうなことがあれば具体的にこちらから尋ねます。
営業マンがおきゃくさまのニーズを引き出す際にも質問は有効です。おきゃくさまの本当のニーズが100%だとすると、実際は10%を出してくれればいいほうです。質問しながらそこを100%に近づけていきます。
これは不動産屋の店員とおきゃくさまとの関係で見てみると分かりやすいでしょう。おきゃくさまとのやりとりを通して、「どんな物件を探しているのか?」「どんな間取りがいいのか?」「いつまでに住みたいのか?」などと、目的や好みを聞いていきます。
なお、自分の理解を確認する、不足している情報を引き出す、いずれのケースも「相手の話が要領を得ないから」というような上から目線の態度は避けましょう。
自分の考えを相手が分かるように、相手が受けとめやすいように伝えることも大切ですが、それだけではなく、相手がどう考えどう受けとめているのかも質問して確認しましょう。
例えば、「現状についてどうお考えですか?」「次にどうされるのがよいとお考えですか?」などと相手の見解や提案について尋ねたりします。これも、相手を試すような上から目線では相手も快くないものです。あくまでも、相手の考えを知りたいという姿勢で聞きましょう。
私はアナリスト時代、相談や進捗報告のために上司を訪ねると、たいてい「何の件かな?」などと、部下の私が話の主導権を持てるような形で切り出してもらったものです。そう質問されると、「○○の件です。今こんなふうになっています。ここで迷っています」と、自分で話を組み立てられるきっかけになるので、とても勉強になったことを覚えています。
相手が話したいことを引き出すためにも、まず相手が話す機会を質問で作ってみましょう。
相手が話し出すのをただ待っているのではなく、「聞く」ことで話を引き出し、深め、広げていきます。
質問は話を深め、広げる重要な手段
(次回は「飲み会での話し方」について)
金子敦子(かねこ・あつこ)
東京大学文学部卒業。英国インペリアル・カレッジ・ビジネススクール(MBA)修了。
アクセンチュア(コンサルタント・マネージャー)勤務、MBA留学を経て、UBS証券株式調査部(アナリスト・ディレクター)として業績予想および投資判断リポートの作成、国内外機関投資家へのプレゼンテーション業務を行う。
その後、武蔵野大学グローバル・コミュニケーション学部(専任講師)においてビジネス・コミュニケーションをはじめ、ビジネス英語、財務諸表分析・企業分析を担当。
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