大切なことは、お客さまを迎えるときと、送るときに、小さな気づかいを積み重ね、感動していただくことです。
本連載は、上田比呂志氏著、アスコム刊『「気がきく人」の習慣』から一部を編集・転載しています。
東京・荒木町で大正時代に創業した料亭「橘家」で生まれ、幼いときからおもてなしのいろはを教わり、成人後は三越やフロリダのディズニーランドで気づかいの極意を学んだ著者による「気づかいのコツ」を紹介します。
気づかいができるようになると
・上司、先輩に可愛がられる
・人間関係がうまくいく
・異性にモテる
・仕事がうまくいく
・お金が貯まる
・人生が変わる
など、さまざまな点でうまくいくようになります。
相手を喜ばせ、自分にとってもうれしい結果が待っているいいことづくめの「気づかいのコツ」を学んで、「気がきく人」の仲間入りをしませんか。
幸いにして、私は子どものころから間近で気づかいを教えてもらえる環境で育ちました。女将である祖母から教えてもらったことで、今も忘れられない言葉があります。
「ひろ坊。働くとは、傍を楽にしてあげることだよ。傍というのは周り。周りの人っていうのはお父さん、お母さん、おばあちゃん、周りで働いている人。みんなを楽にしてあげることなんだよ。楽にできていなかったら、まだ働いていないんだよ」
当時、小学生の私が任されていたお手伝いは、お燗番(※)に加えてもう1つありました。それはお客さまの靴を管理する下足番です。仕事の手順そのものは、じつに簡単。お客さまが脱いだ靴を整理してしまっておき、帰るときに取り出して並べておく。それだけでした。
しかし、玄関先でお客さまを迎え、送り出すという役割で傍を楽にするには、靴の出し入れだけでは足りません。祖母と母から教わったのはこんな気づかいでした。
例えば、お客さまが帰るとき、どのタイミングで靴を出して揃えておくか。あまり早く出し過ぎると、「帰れ」と言っているようでよろしくありません。そこで、座敷に果物が出たくらいで、下足を並べ始めるのです。
ちなみに、果物は女将から幹事の人への「そろそろ仕舞いです」というサイン。お客さまも心得たもので、果物が出たら、座はお開きに向かっていきます。
靴を並べるときに重要なのは、主賓のお客さまの靴です。かならず手前に並べます。なんでもないことのようですが、お客さまの人数が多いときには靴が玄関に3列くらいになりますから、遠くに置いてしまったら大変です。お帰りになる順番は主賓の方からですから、下足番も今夜の幹事がどのお客さまを接待されているのかを知っておかなければいけません。
下足にまつわる女将の気づかいはそれだけではありません。靴にしみ込むような雨脚の日には、替えの靴下を用意していました。お客さまが靴を脱いだタイミングを見計らい、下足番である私がすっと新しい靴下を差し出すわけです。お客さまは、まさか新しい靴下が出てくるとは思っていませんから、驚き、喜んでくださいます。
履き替えると足先がすっきりし、新たな気持ちでお座敷に進むことができます。いくらもしない靴下でお客さまの心を動かし、また来ようという気持ちにさせる。女将の気づかいに子どもながら感心したのを覚えています。
宴席が続く間にお客さまの靴を丁寧に磨いておくというのも、祖母から教わったことでした。帰るとき、靴がピカピカになっていると、これもまた気持ちのいいものです。下足番の役割できちんと気づかいを行うことで、お客さまにまた「橘家」を利用しようという気持ちになっていただくこと。それが当時の私にできる傍を楽にすることでした。
大切なことは、お客さまを迎えるときと送るときに、小さな気づかいを積み重ね、感動していただくことです。玄関に素敵な花を飾って迎えてもいい。お帰りのときには、お土産を差し上げたり、寒い日には使い捨てカイロをお渡ししたりする。料亭では火打ち石でお見送りをすることもあります。始まりと終わりの気づかいを大切にすることで、「また、あなたに会いたい」と思ってもらえるのです。
別れた後に、お礼のメールを送ると、さらに印象がアップ。お手紙を送れば、感動していただけることもあるでしょう。明日から、すぐに実践してみてください。
まとめ
出会うとき、別れのときを大切にすると、あなたの印象がアップする。
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