ビジネスメール指導のその前に――顔が見えない相手に“気が利く”新入社員に育てるコツ研修に行ってこい!

友達同士の気軽なメールに慣れた新入社員にとって、最も戸惑うのは、職位、立場、年齢が異なる人とやりとりするビジネスメール。新入社員研修でもそうしたメール応対の要望が増えています。ですが、その前にちょっとしたことを実践してみませんか。

» 2010年05月18日 15時50分 公開
[原田由美子,Business Media 誠]

 学生時代の友達同士、携帯電話での気軽なメールに慣れた新入社員にとって、最も戸惑うのは、職位、立場、年齢が異なる人とやりとりをするビジネスメールです。担当した新入社員研修でも、「メールの文例がもっと欲しい」という要望が増えています。

 そこで今回と次回は、ビジネスメールの書き方を指導するポイントと、その指導を通じて、新入社員が“気が利く”と言われるレベルの仕事ができるようになってもらうコツをご紹介します。

新入社員のホンネ――相手がイメージできない

 今や直接お会いしなくてもメールだけで用件が済む時代。現在メールでやりとりしている人と会ったことがないというケースも多いのではないでしょうか? しかし、過去に実際に取り引きしたり、似たような会社と付き合ったりした経験から、メールを送る相手の仕事内容や職位に応じて、何となくイメージを働かせ、相手がどのような仕事をしていて、どのような役割を担っているのか判断し対応しています。

 ですが新入社員にとっては、企業名、セクション名、役職名などを見ても、その人がいったい何をしている人なのか、理解できていないことが普通。そのため、ビジネスメールの作成方法や、送付する上でのポイントを伝えても、なぜそうしなければならないのか、ピンと来ないのです。このことは何もメールに限った事ではありません。電話でも同じことが言えます。

 就職活動中に企業訪問をしていても、ダイレクトに接するのは人事部門が中心。それ以外の職種は、入社するまで実はイメージの範囲外になります。

顔を合わせる機会が激減

 現在、30代後半〜40代の世代は、自分達が新入社員の時には、インターネットやメールがまだ普及していませんでした。上司や先輩は、お客様や取引先を訪問する際「ちょっと近くまで来たので、今回入りました新人を紹介します。わが社の期待のホープです。宜しくお願いします」と紹介して歩いたものです。

 当時はお客様もおおらかで、ふらっと訪問しても嫌な顔をされることはありませんでした。紹介した新入社員にも興味を持ってくれて「がんばりなさいね」といった応援の言葉をもらえます。すると、新入社員も「この会社、いい会社ですね。いい仕事がしたいです」という気持ちが芽生え、その会社やお客様に、喜んでもらうための努力をしながら、少しずつ仕事を覚えていきました。

 ところが最近はお客様も多忙で、新人紹介だけの訪問を受け入れる余裕がありません。セキュリティも厳しくなり、ふらっと訪問することはできなくなりました。さらに人手不足もあり、上司や先輩の仕事の一部をすぐに任されます。相手の顔を知らないまま、実務を担う。それが現状ではないでしょうか?

社長は誰と付き合っているでしょう?

 わたしは新入社員の研修で「社長って、誰と付き合っていると思います」と聞くことがあります。すると新入社員たちは「大学時代のお友達とか、会社の仲のいい人達とか、お客様とか……」と答えます。もちろんそれは100%間違いではありませんが、社長の付き合いは通常そうした友達・知人付き合いだけではないはずです。

 新入社員に限らず人間は、自分達がつき合っている人との関係以外はあまりイメージができません。こうした状態で「ビジネス文書は簡潔に」と伝えても、なぜ簡潔にしなければならないのかが分からないので、自分を基準に簡潔にするレベルにとどまってしまいます。

 配属後も、彼らに関係があるメール以外は目にしません。その結果、上司や先輩が誰とやり取りしていて、どんなことに配慮しているのか、なぜそうしているのか、よく分からないことが多いのです。

メールの書き方を教える前に

 そこでお勧めするのは、次の2点です。

  1. 職場訪問をする
  2. お客様プロフィールを作成してもらう

 最初に職場について教えます。社内の各職場に連れて行き、その組織の役割、具体的な仕事の内容、自分の組織とのつながりを伝えながら、役職者や担当者にあいさつしてまわります。

 職場の環境や、働いている人の様子、どんなことを大事にしながら働いているのかを感じてもらうことがポイントです。

 職場訪問すると、自分達が受け取るメールがどこから発信されていて、どのような背景のもとにそのメールが伝えられているのか、身近に感じられるようになります。そうした経験ができると、自分が受け取るメールが全員に発信されているものであっても、関心を払うことができます。また、自分が発信する時も、相手の顔をイメージしながら組み立てることにつながります。最初の一歩は、社内訪問です。

 次は外部です。新入社員が戸惑うのは「会社名」です。TVのCMや自分の関心がある会社以外は、名前を覚えるのにもひと苦労。まして、その会社が何をやっている会社なのか、自社とどのような背景で、どのような付き合いがあるのか、チンプンカンプンです。

 メールで社名を見たとしても、「記号」にしか感じられず、リアルな存在ではありません。そこでやっておきたいのは「お客様プロフィール」の作成です。

 お客様の社名や取引先、セクション名、担当者名の一覧表を渡し、その会社が何をしている会社なのか、どのような特徴がある会社なのかをまとめます。今はWebサイトの会社情報などがあるので、以下のような情報なら簡単に調べてまとめるられるでしょう。

お客様プロフィール
項目 内容
会社名(かな文字の読み方)
企業情報 代表者名
住所
拠点数
資本金
設立
決算期
従業員数
取引銀行
主力商品(特徴)
業界内のそのほかの企業
企業理念
経営目標
担当者情報 担当部署/担当者(役職)氏名
電話番号/FAX番号
メールアドレス
そのほか
備考
「そのほか」欄には取引に至った背景/依頼していること/留意点などを記入。この内容は上司や先輩が伝え、本人が記すこと。備考欄には新聞や雑誌の記事、体験した情報などを記入

 社内にお客様プロフィールがすでにある場合でも、メインのお客様や取引先の5〜10社をピックアップし、自分で調べてもらいます。そうすると、企業情報をどのように調べたらよいのか、どんなところを見たら良いのかがつかめるようになってきます。

 自分で調べてみると、その会社の人とのメールのやり取りが、どのような目的を目指しているのか、どのような点に留意するべきかなどの勘が働くようになります。このことは、電話応対でも有効です。新入社員に仕事がない時などに、このような取り組みをしておいてもらうことは、大変有効です。

ビジネスメールのポイント

 上記のことができたところで、ビジネスメールの作成のポイントに移ります。そのポイントは次の3つです。

  1. 効果的な「発信者情報」
  2. メール文の「1の法則」
  3. 苦手な敬語表現のマスター

 詳細は、次号でご紹介します。まずは“気が利く”新入社員の第一歩――相手を知る習慣を身につけさせてください。


著者紹介:原田由美子(はらだ・ゆみこ)

 大手生命保険会社、人材育成コンサルティング会社の仕事を通じ、組織におけるリーダー育成力(中堅層 30代〜40代)が低下しているという問題意識から、2006年Six Stars Consultingを設立、代表取締役に就任。現在と将来のリーダーを育成するための、企業内研修の体系構築、プログラム開発から運営までを提供する。

 社名であるSix Starsは、仕事をする上での信条として、サービスの最高品質5つ星を越える=クライアントの期待を越える仕事をし続けようとの想いから名付けた。リーダーを育成することで、組織力が強化され、好循環が生まれるような仕組みを含めた提案が評価されている。


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