「日報」で新入社員のビジネスの基礎力を鍛える研修に行ってこい!

新入社員に何の指導もせずに日報を書いてもらうと、要点がよく分からない日報ができあがることがよくあります。読んでいるこちらは微笑ましくなりますが、ビジネス文書の側面から言うと合格点をあげられません。

» 2010年04月27日 12時30分 公開
[原田由美子,Business Media 誠]
新入社員が書く日報の例
日時:20XX年○月○日 記載者:××
内容  今日は朝から、山田さんに機械の操作の仕方を教えてもらいました。機械の操作は、そんなに難しくありませんが、覚えることが沢山あり、メモを取るのに手いっぱいでした。途中、川村課長からお話がありました。なんでも、今期の目標は厳しいので、頑張って欲しいとのことでした。僕にできるか、心配になりました。

 今日は眠くなることもなく1日を過ごせました。明日もがんばりたいと思います。

 新入社員に何の指導もせずに日報を書いてもらうと、上記のように表現するケースがよくあります。読んでいるこちらは微笑ましくなりますが、ビジネス文書の側面から言うと合格点をあげられません。

 さて、上記のような報告書が提出された場合、どのように指導するとよいでしょうか。今回は、その指導のヒントをご紹介していきます。

ビジネス文書とは?

 まずは、ビジネス文書全般についての確認です。

  1. ビジネス文書の役割:ビジネス文書の役割は、組織が目的や目標に向かって経営活動を行う中で、社内外への情報の受発信を正確、確実、簡潔、円滑に進めることにあります。受け取る側は、文書の情報を元に判断し、必要に応じて行動を起こすために用います。そして、記録した情報は、次の経営活動に役立てていきます。
  2. ビジネス文書の種類:主に社外に向けたものと、社内に向けたものに大別できます。ここで組織内の主な文書の種類を具体的に挙げてみましょう。

社外文書

  • 社交儀礼関連文書:挨拶状、案内状、招待状、礼状、感謝状、見舞状、弔慰状など
  • 商取引文書:発注書、確認書、契約書、申込書、見積書、請求書、督促状、抗議文など
  • 商品/サービスに関する文書:会社案内、商品パンフレット、取扱説明書など
  • そのほか:決算報告書、事業報告書、定款・約款など

社内文書

  • 通達文書:指示書、通知書、辞令など
  • 伝達文書:稟議書、企画書、申請書、報告書、議事録、(業務)連絡書、伝言メモ、紹介書、始末書、各種届出書など

 一言でビジネス文書といっても、その目的や影響の範囲に応じて、多くの種類があります。また、フォーマットが用意されているもの、フォーマットがあっても都度内容が異なるもの、フォーマットがないものがあります。

 そして、その立場や役割につかなければ、作成しない文書があります。普段は意識することが少ないですが、このように考えてみると、わたしたちは多くのビジネス文書に接し、業務上の判断や行動に役立てていることが分かります。

3つの基本ポイント

 さてここからは、「業務上の判断や行動に役立つ、ビジネス文書の基礎を習得するため」という目的を設定して、ご紹介した日報の見直しを図っていきます。指導する際にわたしが着眼するのは、次の3つの基本ポイントです。

3つの基本ポイント
項目 チェック
1:「目的」や「読み手」を意識して記載していますか?
2:5W3Hで正確に表現していますか?
3:簡潔に表現していますか? ×
○:できている、△:曖昧、×:できていない

 これを見る限り、いいところなしですね。これをダイレクトに伝えると、新入社員がヘコんでしまいます。ここからが技の見せどころ。大事なポイントを絞って伝えていきます。

瞬間的に判断しやすい文書にするコツ

 指導するポイントはいくつかあります。その中でも改善への近道は3番目の「簡潔に表現していますか」に着眼することです。

 ここでご紹介するのは、誠 Biz.IDの連載でも活躍中のアイデアクラフト開米瑞浩氏から教わった方法です。開米氏は情報を読み解き、整理、整頓することの重要性や、整理整頓する上でのコツを連載や著書の中で紹介していますが、それをわたしなりにアレンジして見ました。

 開米氏は、ビジネス文書を瞬間的に分かりやすくするコツとして「見出しをつける」ことをおすすめしています。見出しは、ラベル、ネーミングなど表現のバリエーションがいろいろありますが、「一言で言うと」「要するに」「要約」ということにつながります。

 わたしはこのことにヒントを得て、自分で書いている文章が分かりにくい時は、「見出し」をつけてみます。すると、自分が伝えたいことと、書いていることのズレを把握できたり、伝えたいことのポイントを絞ることにつながっていくのです。結果、長い文章でも伝わりやすくなるという実感もあります。

 その体験をヒントに、一目見て何が書いてあるのか分からない文書をもらった時には、「見出しをつけて」と依頼します。そうすると、自分で気づいて改良し、こちらが判断しやすい文書に生まれ変わってくるのです。

「見出し」で文書が見違える

 先に挙げた例に見出しをつけると、次のようになります。 

日報
日時:20XX年○月○日 記載者:××
内容 (1)今日取り組んだこと
 今日は朝から、山田さんに機械の操作の仕方を教えてもらいました。

(2)今後課題に感じていること
 機械の操作は、そんなに難しくありませんが、覚えることが沢山あり、メモを取るのに手いっぱいでした。途中、川村課長からお話がありました。なんでも、今期の目標は厳しいので、頑張ってほしいとのことでした。僕にできるか、心配になりました。

(3)明日への取り組み課題
 明日は朝、今日の復習をします。それから、機械の操作に慣れるように、繰り返し練習します。

 チェックポイント3の「簡潔に表現していますか?」の項目に手を加えましたが、それ以外は全く変更していません。しかし、先ほどに比べて、内容が把握しやすく、判断がしやすくなったのではないでしょうか。

 やや幼い表現が気になりますが、仕事に慣れるまでは、心理状態を把握できる点から、素直な表現をそのままにしています(ただし、「眠い」などの表現は、指導する人に失礼にあたるので注意するよう伝えます)。表現については、指導する側の判断でタイミングをみて指摘するといいでしょう。

 なお、「見出し」を最初から与えてしまうのも一考ですが、余裕があれば、見出しから考えてもらうことをお勧めします。というのも、ピンとくる見出しをつけるのは思った以上に難しいため、思考力を養う訓練になるからです。

 最初は上手にできなくても、粘り強く取り組んでいくうちに、急に見違えるようにできるようになります。そうなると、見出しだけでなく、それ以外の仕事でも考えて動けるようになるので、基礎力のある新入社員が育つのです。小さな工夫ですが、大きな基礎作りにつながります。基礎力のある人材の育成に、役立てて下さい。


著者紹介:原田由美子(はらだ・ゆみこ)

 大手生命保険会社、人材育成コンサルティング会社の仕事を通じ、組織におけるリーダー育成力(中堅層 30代〜40代)が低下しているという問題意識から、2006年Six Stars Consultingを設立、代表取締役に就任。現在と将来のリーダーを育成するための、企業内研修の体系構築、プログラム開発から運営までを提供する。

 社名であるSix Starsは、仕事をする上での信条として、サービスの最高品質5つ星を越える=クライアントの期待を越える仕事をし続けようとの想いから名付けた。リーダーを育成することで、組織力が強化され、好循環が生まれるような仕組みを含めた提案が評価されている。


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