いわゆる“背中で見せる”指導をしていた筆者。ですが、なかなか部下の成果があがりません。そこで、やってしまった筆者の失敗と、本来こうすべきだったというやり方を反省を交えて紹介します。
今回は、筆者の経験から部下や後輩への指導の方法を考えてみたいと思います。
部下を指導していた時のことです。最初は筆者のお客様先に部下を連れていったり、部下に同行するなど、いわゆる“背中で見せる”指導をしていました。その後、部下が独りで営業に行くようになった時に、問題がちらほらあらわれてきました。どうやら、お客様との商談がなかなか上手く進められない様子です。しかし筆者も、その理由が分からずにいました。
なんとか成果を上げてもらいたいと考えた筆者はある日、訪問前にロールプレイングを行い、その日の商談をイメージしてもらうことにしました。すると、自社の商品説明の準備はしていたものの、お客様に聞くべき研修を実施する背景や、会社の現状などを質問する準備ができていません。
そこで筆者の大失敗です。お客様に対して質問すべき項目をリストアップし、部下に渡してしまったのです。渡された部下は、リストアップした項目に依存するようになり、お客様との交流が生まれにくくなりました。当然、成果は上がりません。
その上、成果が出なくても「原田(筆者)が言った通りにやったのに成果が出ないのだから仕方がない」という風に認識していました。ただ与えるだけの方法は、部下の考える機会を奪い、結果として営業として大事な主体性が欠ける指導になっていたのです。
それではこの時に、筆者がすべきだったことは何だったのでしょうか? それは、訪問準備の指導ではなく、自分で気づく機会を粘り強く与えるべきだったのでした。答えを教えればその場の行動がすぐに変わり、成果につながるように思えますが、長い目で見ると全く逆です。自分で考えず、行動もできない人材になってしまうのです。
顧客訪問前の準備も同様です。いかに自分で考えてもらうか、自分で気づくかが重要なのです。そのためにはまず、指導する側も自分自身の行動をしっかりイメージできなければなりません。
例えばあなたは、顧客訪問前にどのような準備をしていますか? あらためて考えると「何をやっていたっけ?」と考え込んでしまう人もいるのではないでしょうか。手順を追って1つ1つ考えてみないと、出てこないぐらい、意識せずにやっていることが多いはずです。
下に筆者の例を紹介します。大事なのは、図の項目ごとにどのようなことを考え動いているのかという“考動”も明確にすることです。
例えば次のようなイメージで考えます。
筆者はアポイントを取る前に、アポイントの目的を考えます。例えば、新しいセミナーを紹介し、参加の可否を明確にする、実施が決まっている研修についてリクエストを聞く、初めての訪問であれば、現在実施している研修のコンセプトや概要を聞くなど、なるべく具体的に設定します。その上でお客様にお時間をいただくためのメールや電話をかけるなどのアクションに移ります。
訪問前に取り組むことはおおまかに分けて4つです。
それぞれに次のような項目をチェックしています。
取り組み | アクション | チェック |
---|---|---|
ホームページの確認 | ニュースリリースの最新記事(新製品、人事/IR情報、採用情報など)を確認 | |
社名で検索し、関連した記事が出てきたら目を通す | ||
資料の準備 | ホームページから、お客様の課題について仮説を立てる | |
仮説に合った情報を準備(新規の場合は企画、既存は、既業務の中での課題をどう消化するか) | ||
提供する以外の参考情報(顧客先業界の情報など) | ||
シミュレーション | お客様先の現場を思い浮かべながら、内容をシミュレーション | |
訪問経路の確認 | 乗る電車などの確認 | |
不測の事態に備え、代替交通機関の確認 | ||
以上のように、細かく分けて書き出しておきます。
自分の流れが明確にできた段階で、部下や後輩のできているところ、できていないところを観察しましょう。そして、できていないところを見つけたら、自分の仕事を手伝ってもらう機会を作ります。例えば、ホームページを見て気づくことがないか意見をもらうことや、資料作成を手伝ってもらうなどです。
ここで最も大事なポイントは、さりげなく「なぜそれが大事なのか」を伝えること。ただ手伝ってもらうだけでは、なかなか気づきませんし、最悪、単なる作業に終わってしまいます。なので要所でしっかり時間を取り、ポイントを伝えてあげてください。
そうすることで、部下や後輩が同じプロセスで仕事を進める時にも、応用できるようになります。また、この方法は手伝ってもらうという共同作業がポイントです。一方的な教える・教えられるというポジションにならないため、部下・後輩の依存心が生まれず、自立的な育成にもつながります。
準備の大事さは、誠 Biz.IDの読者であれば理解できるはず。しかし、その指導を誤ってしまうと、長期的な失敗につながります。今回は筆者の大失敗を紹介しましたが、これからの役に立てていただければ幸いです。
大手生命保険会社、人材育成コンサルティング会社の仕事を通じ、組織におけるリーダー育成力(中堅層 30代〜40代)が低下しているという問題意識から、2006年Six Stars Consultingを設立、代表取締役に就任。現在と将来のリーダーを育成するための、企業内研修の体系構築、プログラム開発から運営までを提供する。
社名であるSix Starsは、仕事をする上での信条として、サービスの最高品質5つ星を越える=クライアントの期待を越える仕事をし続けようとの想いから名付けた。リーダーを育成することで、組織力が強化され、好循環が生まれるような仕組みを含めた提案が評価されている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.