新入社員の時に教わって以来、筆者が今でも提案活動に生かしていることがあります。それは自分以外の人にクライアント役をやってもらう「ロールプレーイング」です。取り組みが、仕事の成否を分けているのです。
前回、前々回と、OJTの重要性、目的、機会について紹介してきました。今回から実践編に移りたいと思います。実際に試すことで、売上アップや、社内コミュニケーションの活性化など直接的な成果にもつながるので、参考にしてみてください。
新入社員のころのOJTで身につけてから、筆者が今でも提案活動に生かしていることがあります。それは自分以外の人にクライアント役(または上司役)をやってもらう「ロールプレーイング」(以下、ロープレ)です。この手法はプロの研修講師も活用する非常に有用な手法です。
ロープレのやり方は実に簡単で、クライアント役の人に、これから訪ねるクライアントの概要、相手の役職、提案背景を簡単に伝え、提案書やパンフレットを元にプレゼンをするというものです。そして、その提案の印象や気になったこと、分からないことなど、感じたことを率直に言ってもらいます。
そんな簡単な取り組みが、仕事の成否を分けています。それでは筆者の実体験を元にお伝えしましょう。
クライアントにプレゼンをする前に、メンバーとロープレを行いました。以下はその時のやり取りです。
メンバー(クライアント役) 表紙に「グローバル人材育成研修」って書いてあるけれども、海外に行く人を育てるの?
筆者(営業) 海外に赴任するケースは少ないだろうから、海外から日本に来る方の受け入れや、海外とのお取引が多い企業への対応も含めて考えたつもり。
メンバー(クライアント役) そうか。それって、先方は分かってるの?
筆者(営業) 大丈夫だと思う。一応説明するし。
メンバー(クライアント役) まあ、説明するならいいか。でも分かるかなあ。
そのロープレ後、クライアントに提案をしました。するとクライアントは提案書の表紙を見た瞬間に、少し顔色を変え、やや難しい顔をしていました。筆者は、
あっ、さっき指摘されたところだ。先に定義しておかないと
と、指摘された部分をしっかり定義し、説明したつもりでした。しかし、そう簡単にはいきませんでした。クライアントは提案書の第一印象で、すでに“自分の意向と違う”という気持ちになり、その後の説明がよく頭に入っていなかったようです。
せっかくメンバーにコメントをもらっていたのに、修正しなかった自分の責任です。この場はその提案に執着するのをやめ、クライアントの意向を聞く方向へと切り替えました。そして改めて意向を反映した提案の機会をもらうことにしました。
ロープレをしていたので、クライアントの反応にも即座に対応することができました。もしこれを行っていなかったら、ダラダラと提案を続け、次はなかったかもしれません。
上記ケースの問題点は、訪問前にもらったコメントを元に修正をしなかったことです。クライアントが自分に最も必要な商品やサービスを取捨選択できる時代、1つ1つの機会の精度を高めておかなければ、選ばれないと痛感した出来事でした。
それでは、ロープレはどのように進めればよいのでしょうか? その進め方を具体的にご紹介しましょう。
提案する人、提案される人役に分かれます。
提案する人は、提案される人に次のことを伝えます。
会社名/会社の理念、経営目標、主な商品やサービス、ターゲットとしている市場など提案先のビジネスの特徴/窓口担当セクション名/窓口担当セクションの主な役割と目標/窓口担当セクションの担当者の役職と考え方の特徴
提案書あるいはパンフレットなどを活用し、提案します。
提案された人は率直に感想を伝えます。(例:全体的な印象、提案の流れ、説明の仕方、声の大きさやトーン、身だしなみ、座り方、話し方、目線、理解しにくかった用語、資料の見栄え など)
感想を元に、どこをどのように修正するとよいか、アドバイスをもらいセッションを終えます。提案する人は改善ポイントを元に修正し、実際の提案に臨みます。
提案した後は、提案される人役を引き受けてくれた人に経過報告と協力へのお礼を伝えます。
クライアントや上司に提案をして良い反応が得られないと、どこがどのように悪いのかが分からず、落ち込んだり悩んだりします。しかし、ロープレを行い、自分以外の第三者の意見を聞くと、修正個所が早期に発見できたり、改善の方向性が見えやすくなり、悩む必要が少なくなります。また、取り組むポイントも絞れるため、試行錯誤する時間も短縮できるのです。
最初は照れくさいかもしれませんが、「5分だけ時間ください!」といって、上司や先輩、後輩など職場の仲間に応援を求めることで、提案が通るまでの時間に大きな差が生まれます。それによって、組織の業績が上向けば、協力した相手も喜んでくれることでしょう。是非たった5分の新習慣、試してみてくださいね。
大手生命保険会社、人材育成コンサルティング会社の仕事を通じ、組織におけるリーダー育成力(中堅層 30代〜40代)が低下しているという問題意識から、2006年Six Stars Consultingを設立、代表取締役に就任。現在と将来のリーダーを育成するための、企業内研修の体系構築、プログラム開発から運営までを提供する。
社名であるSix Starsは、仕事をする上での信条として、サービスの最高品質5つ星を越える=お客様の期待を越える仕事をし続けようとの想いから名付けた。リーダーを育成することで、組織力が強化され、好循環が生まれるような仕組みを含めた提案が評価されている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.