「先輩みたいになりたい」――と思っていても、新入社員が一人前になるのは大変です。ポイントはやはり現場でのOJTになるのですが、お仕着せのOJTでは主体的に学ぶ新人は育ちません。どうすればいいのでしょうか。
「先輩みたいに、専門用語を使ってお客様とカッコよく話せるようになりたい」――。「1年後、どんな風に成長していたいですか」と新入社員研修で聞くと6〜7割が口にする言葉です。
彼らにとっては知らない言葉、つまり専門の用語や知識、技術を使いこなし、お客様(または上司や職場の人)から頼られ、仕事を任される先輩社員は、大きな憧れです。「先輩のようになりたい」という思いが強いばかりに、自分が分からない言葉の多さや、知識や技術がなかなか身につけられないことに必要以上に焦ったり、「本当に自分はやっていけるのだろうか」と不安に思い、自信を失くすケースも多いようです。
また、1987年のブラックマンデー前後に生まれ、物心ついた頃から成果主義が当たり前という社会環境で育ってきた彼ら。「すぐに結果を出さないといけない」という思い込みも強く、上司や先輩社員以上に成果や結果に敏感に反応します。その反面、「教えてもらうことが当たり前」で育ってきています。主体的に学ぶ方法を知らないため、受け身なまま不安だけを募らせているのです。
今回は、そんな彼らに自信を持ってもらい、かつ、自ら学ぶ主体性を育むためのヒントをご紹介しましょう。
一般的なOJTの方法としては、新入社員に教えることを項目別に一覧表にまとめ、それを共有します。まずは、その一覧表の例をご紹介しますので、ご覧ください。
大テーマ | 個別テーマ | 時期 | ポイント | 理解の確認 | 資料 |
---|---|---|---|---|---|
理念 | (1)会社の歴史 | 社史 | |||
(2)経営理念 | 会社案内 | ||||
(3)経営ビジョン | |||||
方針 | (4)基本行動方針 | ||||
(5)各部署の役割と方針 | |||||
経営計画 | (6)計画の目的 | ||||
(7)計画の推移 | |||||
目的/目標/計画 | (8)私たちの仕事の目的 | ||||
(9)今期目標と計画 | |||||
規定/ルール | (10)コンプライアンス | 人事制度等の資料 | |||
(11)就業規則 | |||||
(12)組織運営のルール | |||||
製品/商品知識 | (13)取扱製品ラインアップ | カタログ/パンフレット | |||
(14)品質/スペック/性能/特徴 | |||||
(15)用途/使用分野 | |||||
(16)主な導入例など | |||||
関連知識 | (17)業界知識 | Webサイト/取引先一覧 | |||
(18)取引先業界知識 | |||||
(19)主要取引先 | |||||
(20)競合他社の理解 | |||||
業務知識 | (21)業務の流れ | システムのマニュアル | |||
(22)受注システム | |||||
(23)発注システム | |||||
(24)イレギュラー処理 | |||||
(25)各種文書の取り扱い | |||||
(26)業務改善 | |||||
(27)そのほかの業務 | |||||
技術 | (28)商談の進め方 | ||||
(29)プレゼンテーション | |||||
基礎 | (30)PC操作 | ||||
(31)ビジネスマナー | |||||
(32)コミュニケーション | |||||
(33)文書作成 | |||||
(34)語学 | |||||
(35)そのほか | |||||
上記は、営業部門などで活用している指導項目を例にあげました。本来は、各項目に詳細な項目を明記する必要がありますが、本表では省略しています。
表を解説すると、「時期」は、教えるタイミングや期間を明記します。「ポイント」は教え方(座学、工場見学、体験実習など)や、教える上で注意しなければいけない用語などを明記しておくと効果的です。「理解の確認」は、理解度合いを確認する時期を設定し、どれぐらい習得できたかを確認する目安とします。
表記の仕方は自由です。○=習得確認、△=要復習、×=補習などと、教えた人が基準を設けて評価する、あるいは教えた人以外が確認し、客観的に評価するのも一考です。会社に合ったやり方を取り入れてください。「資料」は、どのような資料を活用するかを明記しておくと、情報ソースがバラつかず、教える人が変わってもすぐに対応が出来る点で効果的です。
ご紹介したような一覧表が職場にない場合、最初に作り上げるのは少し根気がいります。しかし、一覧表を作った人たちからは、こんな意見をよく聞きます。
さて、ご紹介した一覧表は、指導者側の立場に立った「指導計画」でした。最初からこの指導計画を新入社員と共有するのも方法ですが、最近の新入社員の傾向から、「自分に足りない点」に意識が向く人が多いような印象があります。そのような人にとって、指導者が作成した一覧表を押し付けることは、モチベーションの低下を招き、焦りや不安につながるようです。また、「教えてもらうことだけ、身につければいい」という印象を与えるため、自主的に学ぶ姿勢に欠けていきます。
そこで新入社員には、成長度を確認する一覧表を自分自身で作成させ、それを指導者が確認していくことをお勧めします。例えば、その一覧表は次のような項目で構成します。
このような表を日々まとめ、成長を可視化していくことで、復習もできるようになり、自分が分かるようになったこと、できるようになった積み上げを実感できるのです。主体的なアプローチが必要な項目を盛り込むことで、自主的に学ぶ姿勢が自然と備わり、習慣化もできます。教える人が忙しいときに、新人が手持ち無沙汰になりがちですが、自分自身で学ぶようになれば、そうした空き時間も減らせるでしょう。新入社員を“学び上手”に育ててください。
大手生命保険会社、人材育成コンサルティング会社の仕事を通じ、組織におけるリーダー育成力(中堅層 30代〜40代)が低下しているという問題意識から、2006年Six Stars Consultingを設立、代表取締役に就任。現在と将来のリーダーを育成するための、企業内研修の体系構築、プログラム開発から運営までを提供する。
社名であるSix Starsは、仕事をする上での信条として、サービスの最高品質5つ星を越える=クライアントの期待を越える仕事をし続けようとの想いから名付けた。リーダーを育成することで、組織力が強化され、好循環が生まれるような仕組みを含めた提案が評価されている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.