シゴトハックを自分で発明するのだ:シゴトハッカーズ
「ツールで学ぶ仕事のハック」をテーマに対談をお届けしてきた「シゴトハッカーズ」ですが、今回でひとまず最終回となります。これまで紹介してきたシゴトハックに共通するポイントを振りかえりながら、自分なりのシゴトハックを発明する方法を考えます。
2008年7月から10カ月間に渡って「ツールで学ぶ仕事のハック」をテーマに対談をお届けしてきた「シゴトハッカーズ」ですが、今回でひとまず最終回となります。そこで今回は、これまでに紹介してきた「シゴトハックス」を振り返りながら、それぞれのハックに共通するような「シゴトハックのルーツ」とでも言うべきポイントを探していきたいと思います。
大橋さん、佐々木さんのお二人が各種シゴトハックを“発明”するときに、なにか意識してきたポイントってありますか?
はい。この連載で私たちが紹介してきた仕事ハックスに共通するテーマの1つとして、「そのときそのときの自分を信用しない」ということがありました。さらにそこから、「1つのことに集中する」とか、「自分に頼り切らない」という考え方に派生しているわけです。
自分を信用しないというのは、一見ネガティブにも思えるようですが、仕事の効率化には極めて重要な考え方ですよね。
そうですね。「自分の力」と一言で言うとピシッと決まっているようですが、実際には「自分の力」は大きく揺れ動くものです。時間帯、体調、感情、天候などによって、容易に左右されてしまいます。
しかし、例えば「ツールの力」はいつでも安定していてほぼ不変なので、この力を適切に借りることで、仕事の質や量に再現性をもたせることができるのです。
「自分の力に頼らない」というのは、言い換えれば「“ひたすらがんばる”ことを諦める」ということかもしれませんね。「自分の努力や根性で解決できる問題」なら、とっくに解決されているはずですし。
また、ツールの力に頼るということは、佐々木さんが言う「再現性」、つまり「その方法を(自分が)繰り返すことができて、皆もマネできるようになる」ことでもありますよね。
はい。最初は新しいシゴトハックスやツールになじめなくて、あまり生産性が上がらないように思えても、よいハックや方法ならば、使っているうちにすぐにコツがつかめるようになります。すると単なる「再現性」だけでなく、仕事の質、量ともに向上が見込めるようになります。
これをより迅速かつ効率的に進めていくためには、自分の力を過度に信用しないという話に戻るわけですが、その点に関連してもうひとつ大事なのが、「1つのことに集中する」です。これもまた、シゴトハッカーズに共通したテーマでした。
「“Not To Do”を用意するのだ」などでも語っていただいたことですが、ある仕事をしているときに何か別の仕事を思い出したり、あるいは「予定外のタスク」が割り込んできたりすることは日常茶飯事です。
そんなときに、とりあえず「思いついたことを素早くメモして元の仕事に戻る」「今すぐやる必要のないことはとりあえずすべて明日に回してみる」といった工夫が生きてくるんですよね。
予定外の仕事や割り込みタスクが入ってくると、「1つのことに集中する」のがすぐに危険にさらされがちです。このことは連載でも書きましたが、前もって予想されることなので、あらかじめ「予定外のタスク」を組み込むための「バッファにできる時間」をもうけたり、「すぐに取り組むか、何とかして少し待ってもらうか」など、事前に機械的に処理できるような、何らかの基準を用意しておく必要があるでしょう。
この基準は人によってさまざまな内容になるでしょうが、事前にタスクをよく整理しておいて、「いつごろならバッファ時間を設けやすいか」とか「すぐに取りかかるとしても、許容可能な基準はどんなものなのか」ということを割り出せると、ストレスが軽減されます。
各種ハックに共通するポイントとしては、「あいまいを無くす」ということも言えるように思います。昨日のメールだけを処理する方法でクローズリストを作る、といった工夫に見られることですが、「“今日片づけるべき”タスクは何か」「このタスクは何時までに片付くのか(=今日の帰社時間は何時になるのか)」など、普通に働いている上でなんとなくあいまいに済ませてしまっていることを、はっきりと可視化するのがポイントですよね。
可視化することのメリットは、やる気が出やすいことに尽きます。やる気というのはロールプレイングゲームでいえばMP(マジックポイント)のようなもので、使えば使っただけ消費されていきます。
可視化することで、残りの作業量を見ながらどれだけの力を出していけばいいのかのペース配分を想定できますので、最後までたどり着くことができます。とにかく全力でがんばるというのでは、もたないわけです。
ちょうどATMでお金をおろすときに「あるだけ全部」という指定はできず、たとえ全額おろしたい時でも、その金額を指定する必要があるのと同じで、やる気を管理している脳に対して、具体的にどれだけのやる気が必要なのかを伝える必要があるのです。
可視化することはそのための目印になるわけです。連載の中で紹介してきた例でいえば、終了予定時刻が見えていることがこれに当たります。
「とにかく全力でがんばるというのでは持たない」といったお話にも関連することですが、「“短時間で一気に”ではなく“長時間で少しずつ”片づける」というのもポイントの1つですよね。
一見「1つのことに集中する」という原則と矛盾するようにも思えますが、そうではなくて「大きなタスクを細かく分解して、ある時間の枠では1つのことに集中する」といった方法を、いくつも紹介してきました。
「3日間ぶっ続けでやれば片付くタスク」を「10日間かけて少しずつ片づける」ようにすれば、佐々木さんのいう「その日の気分や調子」に左右されることが少なくなります。
一般的に「何かを整理しよう」という状況で、この「一気に片付けるか、少しずつ片づけるか」の問題がよく発生します。受信トレイにたまったメールや、RSSの未読エントリ、あるいは「要整理」のトレイなどにたまってしまった未処理の書類や郵便物。これらを一気に片付けようとすると、どうしても先送りにしたくなります。処理には長時間が必要な上に、それだけ片付けても仕事が前に進むわけでもないことが多いのです。
ですから、何ごとも整理することがタスク管理では大事ですが、その第一歩には注意と工夫がいります。第一歩に山が積まれていることが多いからです。
「締め切りまでの日数で仕事量を等しく分割する」という方法のほかに、まずは簡単なところから全体の半分、次の日はその半分、という風にやっつけていく方法もあります。「アキレスのカメ」ではありませんが、最後の方はかなり小さな山になっているため、一気に終わらせることができますし、仕事の中には「捨てればいい」ものも多いので、時間に余裕がある日に始めればうまくいくでしょう。最初がちょっと大変ですけどね。
今回お話しいただいた内容をまとめてみますと、
- 自分を信用しない
→ツールを使って再現性を持たせる、ご褒美や罰のインセンティブ、強制力をうまく利用する
- 「あいまい」を無くす
→帰社時間をはじめとした各種見える化でモチベーションアップ
- 1つのことに集中する
→タスクを細分化し、不安ゼロで仕事に取り組む。GTDの考え方にもつながる
- 「短期間で一度に」ではなく「長時間で小分けに」
→毎日少しずつ片づけることで、予定外の割り込みタスクにも対応できるようにする
ビジネスパーソンが仕事の中でさまざまな問題にぶつかったときに、いったんこれらのポイントに立ち返って考えることで、解決のヒントが浮かびあがってくるかもしれません。最初は“できる人のマネ”をしてみるだけだった人も、自力で解決法を見つけられるようになっていただければ幸いですね。
私自身も、今後もそうして「新しいシゴトハック」を生み出せるよう、日々工夫してみます。大橋さん、佐々木さん、ありがとうございました!
関連記事
- シゴトハッカーズ 記事一覧
- “長すぎる1日”を分割して残業ゼロなのだ
「今日はあまり仕事が進まなかったのに妙に疲れたな」だとか、反対に「仕事量はこなしたけれどあまり疲れなかったな」といった経験はありませんか? 今回は、「1日を3時間ごとのセクションに分割して、それぞれにタスクを割り当てる」テクニックをご紹介します。 - 「バッファ時間」で割り込みタスクをやっつけるのだ
「予定外のタスクが突然割り込んできて、その時間にやろうと思っていた仕事ができなかった……」そんな経験が誰にでもあると思います。頭の痛いこの問題に、うまく対処する方法を考えてみます。 - 「タスクの整理は完璧……でも計画通り進まない」から卒業するのだ
いくらタスクシートを完璧に作り込んだとしても、なかなかその計画通りには進まないもの。今回は、設定したタスクシートに沿って、道を踏み外すことなくタスクを実行していくコツについてご紹介します。 - 時間の見積もりがうまくできなくて困る【理論編】
仕事を片づけていくには時間の見積もりが必須です。しかし問題は、その見積もり精度を高めていくこと。Excelを使って作業記録をつけ、うまく時間を見積もっていきましょう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.