バスウォッチングで見える化する:「現場の仕事」を見える化する
現場と経営の価値観を同じにするにはどういう方法があるでしょうか。「中小企業のカリスマ」と呼ばれる武蔵野の小山昇社長がその方法を伝授します。
長引く不況の中、自社の経営に悩みを抱えている中小企業の経営者が多いのではないでしょうか。そんな中、経営の内部を社員に公開し、徹底的な透明化(=見える化)を継続することで、社員のモチベーションを高め、増収増益を達成した会社があります。それが経営サポート事業などを行なう武蔵野――。
とはいえ仕事の見える化は言うほど簡単ではありません。誠 Biz.IDの読者にも悩んでいる人が多いはず。そんな読者に「中小企業のカリスマ」と呼ばれる同社の小山昇社長が「現場の見える化」の方法を伝授します。
この連載は書籍『経営の見える化』から抜粋、編集したものです
価値観を同じにするには、時間と場所を共有すること
「あのキャバクラのお姉さんは、とてもキレイだ」と社員に100回説明するより、1回連れて行ったほうが話が早い。口でいくら説明しても、そのお姉さんの魅力はなかなか伝わりません。
百聞は一見にしかず、です。価値観を同じにするには、時間と場所を共有しないとダメなんですね。もちろん、連れて行っていってはみたものの「社長、僕にはキレイに思えない。社長と僕の価値観は違う」と言われることもあるでしょう。
ホテルのスタッフの場合、フロントはベッドメイキングをしないし、営業もしません。営業の人は、厨房に立ちません。厨房のスタッフがフロント業務を受け持つこともありません。つまり、時間と場所を共有していないんです。管理職であれば、各部門を横断的に見ているため、ホテル全体を見ています。でも、現場のスタッフは、自分の部門のことしか分かっていないのが実情でしょう。
「武蔵野」もそうです。2階にいる人は3階に来ない。一般社員は早朝勉強会で1階には来るけれど、2階、3階に上がることはない。なので、社長室から社長の椅子がなくなったこともみんな知らないんです、上がってこないから。自分に関係のあることには興味があっても、そうでないことには興味がありません。ですが、それが当たり前なんです。
そこで「武蔵野」では、価値観を共有するために、毎年バスを借りて「バスウォッチング」を実施しています。
社員、アルバイト、パートを5組に分け、全営業所を視察し、「武蔵野がどのように変わってきたのか」、「どのような取り組みをして、どのような成果を上げてきたのか」を全員で視察。引率と説明は幹部社員が担当します。
子どもを幼稚園に送るなどして、バスの発車時間に間に合わないのであれば、途中からバスに乗車すればいいようにしています。
「気付きを50個書け」という強制が、気付く感性を養う
バスウォッチングでは、見学の途中で「今回勉強になったこと」「気がついたこと」「実行したいと思ったこと」など、各自が発表することになっています。他人の発言に耳を傾けることで「あの人は、あんなことに気がついたんだ」と「自分では気がつかなかったこと」にも気づくことができるのです。
そして、バスウォッチングが終了したら、その日のうちに「全営業所をまわって気がついたこと」を「50個」書かせ、メールまたはファクスで提出するように義務付けています。要するに「気づく」ことが大事であって、「50個」書かせると「50個気づく感性」が養われるようになるのです。
なかには「50個も書けない」と泣き言をいう人もいます。ところが「1個足りないと1000円」の罰金で、提出が1日遅れると、遅延金としてさらに1000円の罰金がかかるため、みんな振り絞って「50個」書き出そうとします。
それはもしかしたら「罰金を払いたくない」という不純な動機かもしれませんが、不純で大いに結構。会社というのは、「常に動機が不純でなければよくならない」というのが、小山昇の持論ですから。
「気づき」を得ると「ああ、このままではいけない」と奮起します。競争心が芽生え、頑張りたくなるわけですね。これも、人間の心理です。社長や幹部がいくら口で「頑張れ」といったところで効果はありません。
とするならば、頑張りたくなるしくみを作っていくことが大切です。2008年、「武蔵野」のコールセンター事務管理が前年対比113%伸びて、それまで平均80時間あった残業時間が20時間(最大でゼロ)に減りました。これも、パートがみずから「気づき」、「頑張ろう」と決め、実際に「頑張った」成果です。
著者紹介 小山昇(こやま・のぼる)
株式会社武蔵野の代表取締役社長。その経営手法には定評があり、2000年に日本IBMと並んで、日本経営品質賞を受賞した。「中小企業のカリスマ社長」と呼ばれ、現在は全国300社以上の中小企業に経営のサポートを行っている。
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