「カン」は「論理」の対極にあるものではない:中小企業診断士の思考術
論理的思考力を持つ経営コンサルタントと、長年の「カン」によって成功を収めてきた経営者。両者は対立しがちですが、本当に対立するものなのでしょうか。
経営コンサルタントには「論理的思考力」が求められる、と言われます。私も仕事や勉強を通してそういったものを学んできましたし、また現在では、研修・セミナー講師として指導も少ししています。
しかし「論理的思考」を学び、武器とするコンサルタントが必ずぶつかるのが「カン」という存在です。
経営者の「カン」、実は説明できないだけ!?
経営者と話していると、「オレのカンでは、プランAの方が成功する!」などといった言い方をします。特にカンによる判断で成功体験を積み重ねてきた人の場合、「論理」を目の敵のように扱うこともあります。時には「理屈っぽい」などとネガティブなレッテルを貼られることもあります(いかに「理屈っぽさを感じさせない論理構築をするか」は自分の日々のチャレンジでもあるのですが……)。
そんなふうに「論理」と「カン」は二項対立の存在として考えがちですが、本当にそうなのでしょうか?
実際に「オレのカンでは……」と語る経営者の話を詳しく引き出していくと、その経営者の頭の中では「論理的に」筋が通っていたりすることがあります。つまり、結論に至る道筋を言語化することに単に慣れていない、もしくは面倒くさがっているというだけだったりするのです。
先日行った経営者向けセミナーで、「最も尊敬する経営者を1人挙げて、その理由を説明する」という演習を行ってみました。経営者の名前はすぐに挙がるのですが、多くの人はやはり理由の説明に苦戦していました。そういう場面を見ても、頭の中にあることの言語化は(慣れていないと)いかに大変なことであるかが実感できます。
コンサルの仕事は経営者の「カン」と戦うことではない
考えてみれば、本当に「半か丁か」みたいなカン(=ヤマカン)で判断していたら、それは経営ではなくてギャンブルです。多くの関係者の人生を背負っているはずの企業経営を、ギャンブルにしてよいはずはありません。
中には本当にヤマカンだけで成功させてきた、バクチの天才のような経営者もいらっしゃるかも知れませんが、多くの人は「カン」という名の衣をまとった、独自の経験にもとづくロジックを、頭の中に持ち合わせているように思います。
そうなると、われわれコンサルタントの仕事は、経営者の「カン」とコンサルタントの「ロジック」を二項対立のものとして戦わせることではなく、経営者の「カン」の言語化のお手伝いをすることなのではないか――。
経営者のインスピレーションを尊重し、解きほぐし、周囲が納得できるようなロジックに落とし込んでいく。それが、経営者とコンサルタントの両者の特長を最大限に引き出した仕事につながるのではないかと思います。
※この記事は、誠ブログの「Think! Think! Think! 〜中小企業診断士イノウエの思考術〜:『カン』は『論理』の対極にあるものではない」より転載しています。
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