3つのエンジンから分析するエコカー戦線の現状池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/6 ページ)

» 2015年08月10日 08時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

ディーゼルエンジンとは何か?

 ディーゼルエンジンの燃費には2つの側面がある。まずは、その仕組み上、燃料からエネルギーへの変換効率が良いことだ。内燃機関の燃焼は、事前の圧縮の高さが上がるとより効率良くエネルギーに変換できる。

 ただし、エンジンは燃焼タイミングを制御することが重要なので、そのタイミングを狂わせる要素を嫌う。事前圧縮を高めると早期着火の原因になりやすいため、効率面からはより高い事前圧縮が求められるにもかかわらず、むやみに高めるわけにはいかない。ディーゼルは燃料の混じっていない空気を圧縮し、点火したいタイミングで燃料を噴射する方式なので、理論的に早期着火が起こらない。

 その結果、高い圧縮比が実現できて、エネルギー効率が良いのである。しかし、近年排気ガス浄化の観点から、ディーゼルエンジンの圧縮比が下がり始めている。圧縮比を上げると光化学スモッグの原因となるNOx(窒素酸化物)が増えてしまう。NOxとPM(黒煙)は原則的にトレードオフの関係にあるので、NOxを減らすと今度はPMが増える。後処理装置で浄化しやすいのはPMの方だ。

 そこで、圧縮比を下げてNOxの発生を抑制しつつ、後処理装置で黒煙を除去する手法が確立した。これらの改善によって、ディーゼルは以前に比べて環境負荷が減り、クリーンディーゼルのブームが訪れようとしているのだ。ただし、それでも排気ガスの浄化度を比較すれば、ガソリンエンジンとは比べ物にならないほど環境負荷が高い。今後マイクロPMなどに対する規制をディーゼルエンジンがクリアできるかどうかは予断を許さない状態だ。

マツダは低圧縮ディーゼルの開発によって国産ディーゼルをけん引するメーカーとなった。写真はその先駆けとなったアテンザ/CX-5用の2.2リットル・ディーゼルユニット マツダは低圧縮ディーゼルの開発によって国産ディーゼルをけん引するメーカーとなった。写真はその先駆けとなったアテンザ/CX-5用の2.2リットル・ディーゼルユニット

 ディーゼルエンジンのもう1つの低燃費の理由は、価格の安さにある。原油を精製したときにできるガソリンとディーゼル燃料の比率は一定なので、ガソリンだけを余分に作ることはできない。現在はディーゼル燃料がダブついている状況なので、価格を抑える政策をとっている。余ったディーゼル燃料は海外に輸出しているものの、日本で余っている状況は既に知れ渡っており、買い叩かれている側面もある。

 つまり、ディーゼル燃料を買い叩かれている分の損失はガソリンの価格に転嫁されており、国全体で見たときに効率が悪いのも事実だ。ディーゼルの需要を促進すれば、この状態が改善され、結果的にガソリン価格も下がることになると言われている。ただし、ガソリンとディーゼルを精製バランスにちょうど良く合わせることがそう都合良くできるのかという問題もあるため、それによる改善はそう大きく見込めるものではなさそうだ。

 いずれにしても、現状はディーゼルの需要を増やしたいという都合があるほか、技術革新によるクリーン化の流れもあり、ディーゼルにはしばらく追い風が続きそうだ。

 ディーゼルの強み、弱みをまとめるとしたら、やはりエネルギー効率が高いことと、高速巡航でも燃費が良いことが強みになるだろう。弱みは中長期の排ガス規制をクリアできるかどうかだ。ディーゼルはガソリンと比べるとどうしても「多少の環境負荷を許容する」ことで成立している部分が否定できないのだ。

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