3つのエンジンから分析するエコカー戦線の現状池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/6 ページ)

» 2015年08月10日 08時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

小排気量ターボとは何か?

 ギヤをニュートラルにしてエンジン回転をレッドゾーンギリギリまで上げたところを想像してほしい。かなりアクセルを踏んだ状態だということがイメージできるだろう。そのとき回転計の針がレッドゾーンの手前で止まっているということは、実はエンジン内部の摩擦損失と燃焼によって得られた仕事量が釣り合っているということだ。

 エンジンの回転数を上げるということは、それだけ摩擦損失で無駄が出ているということだ。筆者の経験では、アクセルの踏み込み量を変えずにギヤを入れて、適宜シフトアップしていくと、エンジンの回転数は落ちるが、60km/h近い速度で走れた。その回転数差分の摩擦損失はクルマを60km/hで走らせるだけのエネルギーであるということだ。

 つまり、エンジンの回転上昇は巨大なロスを生む。走行時に常に回転を低く保てれば、エネルギー効率は大幅に改善する余地があるということである。しかし、ガソリンエンジンは性質的には高回転を好む。従来のエンジン回転を抑えて低い回転数を常用するには低速のトルクが足りない。

 ではどうやって低速トルクを上げるかだ。その方法は大排気量化が一番確実だが、そうするとエンジンが大きく重く複雑になり、目的に逆行してしまう。そこで、小排気量で軽量なエンジンを過給して、低速域のトルクを底上げし、エンジン回転を抑えて走る低燃費エンジンの可能性が浮上してくるわけだ。これが小排気量ターボである。

 メカニズムが軽く小さくでき、合理的な一面があるが、無理をしているシステムともいえる。例えば、ターボという機械は排気ガスで風車を回し、同軸につないだもう1つの風車で吸気を送り込む仕組みだが、低速からこの風車を十分に回そうと思えば、流路を細くしないとならない。ホースで水まきするときに勢いをつけるために先を絞って水流を速くするのと同じ原理だ。ではこのまま水道の蛇口を全開にしたらどうなるか。つまり高速では排気出口がフン詰まってしまって、効率が激減するのだ。

 ただし、そうやってターボの流路面積不足が露呈するのがどのくらいの速度域かといえば、クルマと排気量によるだろうが、概ね180km/h以上と日本の公道では使うことのない領域だ。だから、それほど実害のある話ではない。けれど、純粋な機械好きからすると、システムとして少々粗雑で、高い洗練性が感じられなかったりする。もちろんツーステージターボを使えば、ある程度解決するが、そんな並外れた速度域の問題解決のために複雑な仕組みを増やして重量増加というのも、こと乗用車に限って言えば、センスのいいソリューションとは思えない。

 この小排気量ターボは、要するにパワーバンドが狭くなることを織り込んで、思い切って低速側に性能を寄せることを割り切ったシステムなので、低速のおいしいところを上手にキープしてくれるインテリジェントなトランスミッションが無くては成立しない。さらに、低回転を保ったまま高速走行もしなくてはならない。そうするとトランスミッションのレシオカバレッジ(変速比幅)の大きさも求められる。本当はここでそれはどういう変速機なのかを説明したいところだが、詳細はまた改めて書きたいと思う。

ハイブリッドの本家本元であるトヨタが、突然に小排気量ターボに打って出た。1.2リッターのこのユニットは「オーリス」に搭載されて登場した ハイブリッドの本家本元であるトヨタが、突然に小排気量ターボに打って出た。1.2リッターのこのユニットは「オーリス」に搭載されて登場した

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