「小さな大企業」を作り上げた町工場のスゴい人たち

安売りをしない「大人ランドセル」が、海外セレブを虜にする理由スピン経済の歩き方(5/7 ページ)

» 2016年03月08日 08時00分 公開
[窪田順生ITmedia]

大峽製鞄は決してセールをしない

現地のファッションショーでも「大人ランドセル」の「リューク」が注目を集めている(出典:大峽製鞄)

 そこで気になるのは、大峽製鞄の「ブランディング」だ。世界のものづくりが集結し、革製品の本場であるイタリアで、ここまで注目を集めることができた秘けつについて、大峽専務はどう考えているのだろう。

 「ターゲットを絞って、その人たちへの周知を徹底するためにあらゆる施策をとった。そういう点では、展示会が重要なファクターだったのは間違いありませんが、絶対に値段を下げないということもよかった」

 大峽製鞄のブースを訪れるバイヤーたちはその高い品質やデザインに舌をまくが、もうひとつ驚くのは、「価格の高さ」だ。日本国内でも高級鞄であるところへ当時は円高がすすんでいたため、スーパーブランドに匹敵する価格帯になる。当然、ディスカウントを求める者もいるが、大峽専務は決して応じなかったという。

 これは戦略というよりもブランドとしてのポリシーによるところが大きい。国内でも大峽製鞄は決してセールをしないことで知られており、卸している百貨店で全館セールを催す際にも必ず「セール除外品」となっている。東日本大震災の義援金を募るため、B品をチャリティセールで放出をした以外、後にも先にも「安売り」「値引き」をしたことがないのだ。

 「セールというのは、その日に買うお客さまにとっては『得』ですが、前の日に買っているお客さまにとっては『損』でもあります。私たちはどなたがいつどこで買っても同じ価格で売れるモノをつくることを心がけているので、決して値引きをしないのです」

 長年、愛用をしてくれている顧客のためにも「価値」を決して落とさない。確かに、これはブランディングの基本中といえいよう。

 このような原理原則をしっかりと守ったことに加えて、「コミュニケーション」がうまくいったことも大きいのではないかと分析している。

 「展示会や視察を通じて直接いろいろな国のバイヤーと情報交換ができました。ピッティウォモの出展を決めたのも彼らとの雑談。通訳は最低限のことは伝えますが、細かいところまで訳してくれません。ただ、そこにさまざまなヒントがあります。あと、ウチにはネイティブのスタッフもいるので、英文のプレスキットもかなりしっかりとしたモノをつくれます。メディア側からも取り上げやすかったのでしょう」(大峽専務)

イタリアの大手紙『コリエール・デラ・セラ』は2014年1月にも一面で大きく報じられた。ランドセルを持つのが大峽宏造専務

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