マーケティング・シンカ論

新体制で“データの会社”へ――ヤフーが新施策「DATA FOREST」で目指すもの日産や神戸市などと実験

» 2018年02月06日 14時55分 公開
[濱口翔太郎ITmedia]

 「大きな可能性を秘めたビッグデータは、まさに“21世紀の原油”。ヤフーは今後、社内に蓄積された大量のデータを外部に解き放ち、産官学をサポートしていく」――6月中の社長昇格が決まっている、ヤフー現副社長の川邊健太郎氏は2月6日に開いた会見でこう話した。

photo ヤフーの川邊副社長(=右)。左は佐々木CDO

 ヤフーは同日に、ビッグデータを生かした新プロジェクト「DATA FOREST(データフォレスト)」をスタート。公式Webサイトでパートナー企業を募集し、ヤフーが自社データの分析から得たインサイトを、企業・自治体・研究機関に提供していく。

 主な分析対象は、「Yahoo!ニュース」読者の閲覧履歴、「Yahoo!ショッピング」の購買履歴、「Yahoo!Japan ID」会員の行動履歴――など。

photo 「DATA FOREST」の公式Webサイト

 生データではなく分析結果を提供するのは、「ユーザーの個人情報に配慮したため」(川邊氏)。「今後、提携先からのニーズがあれば、ユーザーの個人データを取り扱う可能性もあるが、その際はユーザーに告知し、個人情報の取得を拒否できる機能を設ける予定」という。

 当面はインサイトを無料提供するが、実験の動向を踏まえて有料化する方針。18年度中に製品・サービス化し、19年度中に事業化する計画だ。川邊氏は「宮坂(学)現社長の後を継ぐと発表した1月末、私は『ヤフーをデータに強い会社に変えたい』と言ったが、この取り組みが、今後の戦略についての1つの答えだ」と語った。

日産との実験では手応えも

 「社長交代は直前まで知らなかった」と笑うヤフー執行役員 兼 CDO(Chief Data Officer)の佐々木潔氏によると、「新プロジェクトの発表に先駆けて十数社の企業・自治体と組んだ実証実験を始めており、少しずつ良い結果が出ている」という。

 その1社が日産自動車だ。日産とヤフーは約半年前から、「Yahoo!検索」の検索データから得たインサイトと購買データを組み合わせ、(1)自動車の販売台数予測、(2)ブランドイメージの把握、(3)長期的なニーズの変化の把握――などに取り組んでいる。

 例えば、「エクストレイル(X-TRAIL)×かっこいい」などと、製品名とプラスの言葉を組み合わせて検索するユーザーが多い地域では、実際に製品の売れ行きも良いことを把握した。今後はデータから需要を予測し、販売台数が伸びそうな地域への納入台数を増やして欠品を防いでいくという。

 「日産が訴求したい点を批判し、異なる点を称賛する検索ワードの組み合わせも調べてみたい。PR戦略の練り直しなどに生かせそうだ」(佐々木氏)

もっとやっちゃえ、ヤフーさん

 日産自動車 コーポレート市場情報統括本部の高橋直樹エキスパートリーダーは、「当社のコンセプトは『やっちゃえ NISSAN』だが、データビジネスに関しては『もっとやっちゃえ、ヤフーさん』と言いたい。単に車を売るだけでなく、事業の幅を広げたい」と話した。

photo 日産自動車がヤフーに期待する点

失敗重ねて成果につなげたい

 このほか、江崎グリコやJリーグデジタルなどの企業、神戸市や福岡市などの自治体とも実証実験を始めている。神戸市とは4月1日付で事業連携協定を結び、繁華街・三宮の再整備効果を確かめるため、より包括的な支援を行っていくという。

 佐々木氏は「パートナー募集の仕組みを強化し、協力団体を1万程度まで拡大したい。実証実験は“多産多死”がモットー。たくさん試してたくさん失敗する中で、事業化につながる発見が得られるとうれしい」と話す。

 川邊氏は「データ事業を1つのセグメントとして確立し、決算発表などで業績の推移を継続的に伝えていきたい」と意気込んだ。

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