企業における健康増進政策は、生活習慣病対策と、メンタルヘルス対策が中心となる。
糖尿病をはじめとする生活習慣病の発症や重症化は個人の生活習慣によるところが大きい。しかし、日本人の死亡原因の約6割が生活習慣病であることに加えて、医療費の3割が生活習慣病によるものとされており、企業でも、生活習慣病に関する知識の普及のほか、40〜74歳の公的医療保険加入者を対象に始まった特定健診の受診率向上や、再検査率の向上を働きかけている。特定健診は2009年度から始まり、今年で10年になる。
一方、メンタルヘルス不調の発症や重症化は、環境要因によるところが大きく、個人が注意をしていても予防しきれない可能性がある。職場が要因となることがあるため、企業で改善に向けた取り組みを行う必要があるが、対策は、長年各社・各職場に任されてきた。
15年に、ようやくストレスチェック制度が導入され、常時雇用する労働者が50人以上の職場で義務付けられた。厚生労働科学研究費補助金研究「ストレスチェック制度による労働者のメンタルヘルス不調の予防と職場環境改善効果に関する研究」によると、ある企業を追跡調査した結果、「高ストレス者」が1年後に1カ月以上の休業を開始する割合は、それ以外の者に対して、男性で6.6倍、女性で約2.8倍だったとされ(※1)、高ストレス者のフォローは企業にとって重要であることが改めて認識されている。
しかし、ストレスチェック制度の結果の活用は、まだあまり進んでいないようだ。本稿では、企業におけるメンタルヘルス不調者数の状況とストレスチェック制度の実施状況を確認し、今後のストレスチェック制度活用について検討する。
※1 川上憲人、厚生労働省厚生労働科学研究費補助金「ストレスチェック制度による労働者のメンタルヘルス不調の予防と職場環境改善効果に関する研究 2015〜2017年度総合研究報告書」
(1)メンタルヘルス不調で、休業または退職した従業員は1年間で0.7%程度
厚生労働省「労働安全衛生に関する調査(17年)」によると、過去1年間にメンタルヘルス不調により連続1カ月以上休業した従業員は、常時従業員全体の0.4%、メンタル不調により退職した従業員は、0.3%である(※2)(図表1)。
企業規模が大きいと、休業者の割合が高く、企業規模が小さいと、退職者の割合が高い傾向がある。業種別にみると、「情報・通信業」と「金融業、保険業」が、休業者の割合が高く、「運輸業,郵便業」が、退職者の割合が高い。
(2)メンタルヘルス不調者は増加傾向
厚生労働省の「患者調査」で、企業のメンタルヘルスと関連する疾病の総患者数を見ると、「気分[感情]障害(躁うつ秒を含む)(※3)」は、以前は70歳代をピークとして高年齢ほど多かったのに対し、近年では40歳代を中心とする就労世代で多くなっている。
また、「神経症性障害、ストレス関連障害及び身体表現性障害(※4)」は、男性は20〜64歳、女性は40〜64歳で増加傾向にある(※5)。
さらに、厚生労働省「過労死等の労災補償状況」によれば、精神障害等の労災の請求件数と支給決定件数は、企業でのメンタルヘルス不調に関する取り組み強化にもかかわらず、ともに増加している(図表2)。
※2 1カ月以上休業の後、退職した従業員は、退職者でカウントしている。15年調査で、休業者が0.4%、退職者が0.2%。
※3 国際疾病分類第10版の分類コードF3。
※4 国際疾病分類第10版の分類コードF2。
※5 詳細は、村松容子「企業における「メンタルヘルス対策」〜健康経営における柱の1つ(16年2月22日)」をご参照ください。
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