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なぜ「ストレスチェック制度」は浸透しないのか?メンタルヘルス不調者は増加傾向(4/5 ページ)

» 2018年10月20日 09時50分 公開
[村松容子ニッセイ基礎研究所]
ニッセイ基礎研究所

結果の活用状況

(1)医師による面接実施状況

 厚生労働省による上記公表資料には、高ストレス者と判定された従業員の割合は公表されていない。

 高ストレスと判定され、医師による面接を受けた従業員は、全受検者の0.6%だった。

 (公社)全国労働衛生団体連合会が、ストレスチェック制度の標準的な質問票を使って行った調査(※11)では、全体の1割強が高ストレスであったことを参考にすると(詳細は後述)、高ストレスと判定された従業員の中で、面接を行った割合は、高くはないものと思われる。

(2)集団分析実施状況と結果の活用状況

 厚生労働省の「労働安全衛生に関する調査(17年)」によると、部署等集団ごとの分析を行った割合は、ストレスチェック制度を実施した事業所の58.3%だった。

 そのうち、結果を活用した事業所は72.6%だった。

 活用方法は、衛星委員会等での審議が34.8%と多かったが、業務配分の見直し、人事体制・組織の見直し、管理監督者向けの研修の実施などの対策に至った割合は、それぞれ15〜20%程度だった。結果を活用していない企業も、27.1%あった。

図表6 集団分析活用状況(集団分析を実施した事業所全体に対する割合) 図表6 集団分析活用状況(集団分析を実施した事業所全体に対する割合)

(3)ストレスチェック結果の分析例

 国が推奨する標準的な質問票は、(1)ストレスの原因として17項目(※12)、(2)ストレスによる心身の自覚症状として29項目、(3)周囲のサポートとして9項目(※13)、(4)満足度に関して2項目の計57項目からなる。

 それぞれ4段階で回答し、ストレスが高い方から4〜1点の点数を割り振り、3つの視点それぞれの合計点から高ストレス者を判定する。

図表7 仕事の負担(量)、コントロール度、サポートに関するストレス別の心身の自覚症状の点数差 図表7 仕事の負担(量)、コントロール度、サポートに関するストレス別の心身の自覚症状の点数差

 (公社)全国労働衛生団体連合会の調査(※14)によれば、(1)ストレスの原因、(3)ストレスによる心身の自覚症状、(3)「周囲のサポート」の平均は、全体でそれぞれ、41.4点、57.2点、20.1点だった。高ストレス者は全体の13.6%で、それぞれ49.4点、82.9点、24.2点だった。

 医師等への相談を希望していたのは、全体の1.1%、高ストレス者の2.8%だった。従業員の自発的な申し出だけでは、高ストレス者を医師等の面接につなげるのは難しい可能性がある。

 一般に、仕事上のストレスには、「仕事の負担(量)」「仕事のコントロール度」「上司・同僚のサポート」の3つの要素が影響すると言われている。同調査によると、心身の自覚症状でストレスが大きい人と小さい人とのストレスの点数差は僅差だったが、大きい順に、「上司・同僚のサポート」「仕事のコントロール度」「仕事の負担(量)」の順だった。このことから、心身の自覚症状には、「仕事の負担(量)」だけでなく、「仕事のコントロール度」や「上司・同僚のサポート」の影響も大きいとしている。

※11 「平成29年全衛連ストレスチェックサービス実施結果報告書」(18年9月)

※12 仕事の負担(量)に関する質問3項目、仕事のコントロール度に関する質問3項目を含む。

※13 上司のサポートに関する質問3項目、同僚のサポートに関する質問3項目を含む。

※14 分析対象の従業員(分析を承諾した者)数は159万524人。国が推奨する標準的なストレスチェック項目に加えて、残業時間と医師に相談したいことがあるかどうかを尋ねている。

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