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SNSでニヤニヤしてしまう、「転身ポエム」を分析してみた常見陽平のサラリーマン研究所(2/5 ページ)

» 2018年10月26日 07時43分 公開
[常見陽平ITmedia]

転身ポエムの生みの親

 これらの言葉の特徴は、当時、リアルタイムで聞いていた人たち以外にも独り歩きするほどのパワーを持っていることだ。30〜40年前には「転身ポエム」といった言葉はなく、フレーズは短めだった。「これぞ、転身ポエム!」が登場したのは、サッカー日本代表だった中田英寿氏の引退エントリーではないだろうか。06年7月3日に公式サイト「nakata.net」上で発表されたのだ。

 タイトルは「人生とは旅であり、旅とは人生である」。ものすごく意識が高いではないか。そして、書き出しはこのように書かれている。

 『俺が「サッカー」という旅に出てからおよそ20年の月日が経った。8歳の冬、寒空のもと山梨のとある小学校の校庭の片隅からその旅は始まった』

 タイトルだけでなく、冒頭から「ザ・ポエム」である。サッカーとの出会い、ボールを蹴ることに夢中だった日々、山梨県選抜、関東選抜、U-15、U-17、ユース、そしてJリーグ、さらには欧州へとステップアップしていったこと、五輪代表や日本代表の経験など、華麗なるサッカー人生が書きつづられている。

 ところどころ心情なども吐露した上で、決意表明や感謝の言葉が並ぶ。韻を踏んだり、体言止めを使ったり、表現も豊かだ。久々に読み返してみて、激しく胸を打たれた。最初に読んだときは、ナルシストすぎて苦笑いしていたが、中年になった今は心が優しくなったのだろう。

 現在、SNS上で共有される転身ポエムの原点は、やはり中田英寿氏の引退エントリーが強く影響しているのではないかと感じている。意識高い系会社員の転身ポエムは、中田氏の引退エントリーのような構成になっているからだ。

 ○○との出会い→成長→活躍→成功体験→いくつかの転機→今回の決断に至った経緯→謝辞→決意表明→感謝

 転身ポエムに共通することは、胸を打つキーワードや、ポエム的な表現を盛り込まれていることだ。さらに、次のステージに行くにあたって、「卒業」という言葉が使われているケースが多い。これは、筆者の古巣であるリクルート社員が使う表現だ。もっとも、「卒業」とは言うものの、誰がそれを認めたのかも怪しい。卒業するために単位が足りていない人もいるのではないかとも感じる。一時、「卒業って言うな、退職って言え」とほえまくっていたら、最近のリクルート社員の退職あいさつから「卒業」という表現が減ったような気がする(あくまで体感値であるが)。

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