揺れ動く新卒学生の就活。企業の採用活動時期を定めた「就活ルール」については、経団連が2021年春入社の学生から廃止を表明するなど二転三転が続いている。ただ、現場では既に従来の採用の在り方が変わりつつある。ビジネスモデルの急激な変化や働き方改革で、求められる職場や人材像が変容しているからだ。新卒就活の岐路ともいえるこの時代、試行錯誤する企業や学生を追った。
新卒採用で都市部の大企業よりさらに苦しい戦いを強いられがちなのが地方企業だ。多くがいわゆる中小企業のため知名度でどうしても劣るほか、多くの若者が大学進学で都市部に出てしまい、そのまま戻らないケースも多い。しかも、さらに深刻なのが新卒社員の定着率の低さだという。
そこでリクルートキャリア(東京都千代田区)が進めているのが、地方の中小の新卒採用を支援するプロジェクト「マチリク」だ。1社ごとで行っていた採用を街の企業群が共同で進めることで、効率化やノウハウの蓄積を狙う。加えて、小さな職場で同期もおらず孤立しがちな新入社員に、企業の垣根を越えた街ぐるみの研修を施すことで「地域の同期」を作り、定着を促しているという。宮城県気仙沼市での活用例を聞いた。
熊谷未悠さん(23)は4月、気仙沼を中心にガソリンスタンド運営などを手掛けている気仙沼商会(宮城県気仙沼市)に入社した。高校まで気仙沼で育ち、その後仙台にある大学に進学。就活では最初、仙台の広告代理店から内定をもらっていたが「本当にここでいいのかな」と思い直すように。地元で働きたくなって気仙沼で就活を再開し、今の会社に入ることになった。
今は社員の保険の手続きや社長秘書といった事務を担当している。同期は10人程いるが、ほとんどがガソリンスタンドなどの現場勤務で顔を合わせることは少ない。普段接している先輩や上司は40歳以上がほとんど。職場ではよくしてもらっているが、「私は優しくされすぎているのかも」と不安に思うことも少なくないという。
そんな時、気軽に話せるのが同社も参加するマチリクの研修で出会った、他社にいる「地域の同期」だ。マチリクに参加している気仙沼の企業の新人は、入社前と入社3カ月、6カ月後に一堂に会して研修に参加している。熊谷さんも他の新人たちと打ち解け、懇親会でLINEを交換して友達になった。
「入社して大学時代と環境が変わった。普段同世代と話せないのはやっぱり不安。(他社の新人と)会社でこんなことがあったとか他愛もない話をしたり、悩みを打ち明けたりしている」(熊谷さん)。大学時代の友人の多くは仙台や関東で就職したが、自分は気仙沼で働けて満足しているという。
リクルートキャリアでマチリクを担当するメディアプロデュース統括部事業推進部の原智子さんによると、このプロジェクトの前身は2015年にスタート。東北・三陸エリアの釜石市、大槌町、16年からは気仙沼市も入り、地域の中小の新卒採用・研修を支援する取り組みとして始まった。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング