一年戦争当初からジオン公国は地球連邦政府に国力で大きく水をあけられていた。
ジオン公国総帥であるギレン・ザビの演説によれば(「劇場版 機動戦士ガンダム」)、ジオン公国の国力は地球連邦政府の30分の1以下である。圧倒的な国力差があり、しかも、短期決戦の目論見は外れたものの、正面対決で奮戦した例は史実を紐解いてもまれであろう。
ジオン公国の敗戦後も、ジオン軍残党は、デラーズ・フリート、あるいは、ネオ・ジオンとして地球連邦軍と交戦する。それも、原始的な武器を用いたゲリラ戦ではなく、地球連邦軍のMSと真っ向勝負できる高性能MSを用いてである。
まず、「国力30分の1以下」の意味について考えよう。この数値の初出は、前述のギレン・ザビの演説(ギレンの弟であるガルマ・ザビの追悼演説)であり、ジオン軍によるコロニーへの攻撃や地球へのコロニー落としにより、人類の半数が死亡した後である。
演説するギレン・ザビ=映画『機動戦士ガンダム』より
ここで言う国力とは、GDPや鉱工業(あるいは軍需物資)生産能力ではなく、単なる人口である可能性が高い。
「機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙編」のギレンの演説によると、ジオン公国の人口は1億5000万人である。前線の兵士に被害が出ているとはいえ、ジオン本国があるサイド3は戦場になっておらず、ほぼ正確な数字と見て良いだろう。
徴兵(学徒兵が動員され、ア・バオア・クーでの最終決戦ではゲルググに搭乗している)や食糧供給等の必要だけではなく、遺族年金の支給や障害を負った兵士への恩給を滞りなく行うことも、銃後の士気を維持するには重要である。そのためには、戦時下であっても統治人口の把握は欠かせない。スペースコロニーという閉鎖空間が人口の把握を容易にする側面もあっただろう。
一年戦争の開戦当初の人類全人口を100〜110億人と仮定すると、開戦初期の戦禍で人類の半数が死亡して50〜55億人になった。ジオン公国の人口1億5000万人の30倍が45億人なので、人口比がガルマ追悼演説で語られた国力30分の1以下という比率と一致する。
ジオン国民の優秀さを誇示するには、一年戦争で中立を保っているサイド6のようなコロニーの人口を加味した数字を用いて、「圧倒的な戦力差(実際には人口差)にもかかわらず、奮戦している」ことを印象付けることが利に適っている。
士気を上げるための演説で用いた数字の定義を述べることは、かえって士気を損なうし、ヒトラー等の独裁者の演説は、古今東西、情熱的でメッセージ性がはっきりしているのがお約束である。追悼演説で用いられた数字を、しかも、カリスマ指導者が示した値をいちいち検証しようとする者などジオンには皆無だ。
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