――個々の“ブラック企業”が問題を起こすケースは今も昔も変わらずあるようですが、ビジネス界全体では、労働環境が劣悪な企業は過去30年間で減ったのでしょうか?
新田: 労働環境が社会情勢の変化に応じて変わり、従業員を長時間働かせる企業が減ったことは確かです。振り返れば、バブルの余韻があった平成初期〜中盤はまだ人口増加が続いており、国内市場に商品を出せば必ず売れる時代でした。働けば働くほどカネがもうかるので、青天井の残業を許可し、「24時間戦えますか?」の精神で、とにかく働きまくることが最適解とされました。
ところが、08年にリーマンショックが起きて不況に突入し、10年頃から日本の人口も減少に転じました。そのため、がむしゃらに従業員を働かせるだけの過去の手法は通用しなくなり、消費者の需要を喚起して売れる商品を考え出したり、海外に進出したりと、工夫を凝らした企業が勝つ時代になりました。
そのため、労働環境を見直して、新しいアイデアが生まれやすい環境を整えることが最適解だと考えられるようになりました。そして09〜13年ごろから、先見の明がある中堅・中小企業や、業界で2番手以降に位置する企業を中心に、労働環境の改善に取り組む企業が増えてきました。
そして、15〜16年に前述の電通事件が広く知れ渡ったことで状況が一変。大企業も「人ごとではない」と危機感を覚え、一斉に「働き方改革」に舵を切り始めたのです。
整理すると、過去30年間で、劣悪な労働環境の企業は減っていると思います。また、規模や知名度の大小は問わず、働き手の多様な価値観やライフスタイルにうまくフィットして価値を創出できる会社が生き残り、そうでない会社は働き手に選ばれなくなっているとも感じています。
――なるほど。なぜ当初は業界トップの大企業ではなく、中堅・中小企業や2番手以降の企業が労働環境を見直し始めたのでしょうか。
新田: 大企業は内部の課題を改善しなくても、ブランド力に引かれて多くの社員が集まってきますし、ある程度は商品やサービスが売れるからです。そのため、労働環境の改善を喫緊の課題として捉えている大企業が少なかったように思います。
一方、中堅・中小企業や2番手以降の企業は、魅力的な労働環境を用意しないと、従業員が集まってきません。ですので、一時的に業績に影響は出ますが、深夜に「明日の朝までに仕上げてくれ」と依頼してくるクライアントを切ったり、「当社は営業時間内にしか受注しません」と周知徹底を図ったりし、労働時間を減らすことで、魅力ある職場をつくる方向に舵を切ったのです。
こうした取り組みがうまくいき、ブラック企業から脱却した例は、ソフトウェアメーカーのサイボウズや、システムインテグレーターのSCSKなどが挙げられます。各社は無理難題を押し付けてくる顧客との関係を解消するなどした一方で、新規開拓を図ったり、優良な既存顧客との関係性を深めたりし、現在は働きやすい人気企業となっています。
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