――ただ、企業の各職場では時間になったらPCが強制終了するなどといった、ちょっと頭ごなしだったり、効果を性急に焦るあまり短絡的になっている施策も少なくないように思えます。
中原: 調査ではカラオケボックスに入って残業したり、会社側が職場にドローンを飛ばして残業していないか監視しているという事例も聞きました。残業してまで一生懸命仕事をしているのに、ドローンが飛んできたら、働く人はどういう気持ちがするでしょうか?
施策を導入したら現場の従業員がどう感じるか、(企業の人事や上層部に)想像力が無いのでしょう。そうすると現場はしらけてしまいます。ドローンが飛んで来ることで、会社は従業員を信じていないということが示されてしまう。せめて人事が回ってきて声掛けをすればいいのに……。
残業という問題について議論する場合、みんな仕事で忙しいため自分の“半径1メートル”しか見えなくなるものです。学問に微力ながら力があるとすれば、引いた眼で見ることで「問題がこういう構造になっていますよ」と示すことです。後は個別具体的に自分たちの会社で施策が当てはまるか、当てはまらないかどうかを話し合ってほしい。
本書では残業対策の事例を書きました。後は自分たちの会社で何をやらなくてはいけないか、考えるべきだと思います。(他社事例の)コピペだけではうまくいかないのです。
例えば(上司と部下が定期的に1対1で行う)「1on1」の研修を職場で導入するとします。従業員は心の奥底で「なぜうちでやらなきゃいけないのか。うちは(1on1の導入で知られる)ヤフーじゃないのに」と思うかもしれません。従業員らによる自己決定でないと、こうした施策はやらないものです。
――地道かつ時間のかかる働き方改革ですが、日本で行き渡るにはどれくらいかかると思いますか。
中原: 働き方のアンインストールは10年くらいかかると個人的には思っています。それまで何とか日本の経営がもてばいいのですが、せめぎ合いですね。(18年の)国会での働き方改革関連法案の議論にはちょっと絶望しました。100時間がいいのか、あるいは80時間といった上限規制についての労使の問題になってしまった。しかも与野党の政治の駆け引きにもされている。なぜ残業が起きるかの議論が全くない。この問題は利害関係者が多いので、なかなか変わらないのだろうなと感じます。
戦後の高度経済成長期に支えられた日本は、(その時の体制に)あらゆるものが最適化されてきました。それらを解除していくにはとても時間がかかると思いますね。
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