それまでの観光列車は鉄道会社が企画運行し、集客・販売も自社または自社の関連会社で行っていた。旅行業は許認可事業であり、鉄道会社が旅行業として登録するためには、旅行業務取扱管理者の選任が必要だ。小規模の鉄道会社にとって、専任者を雇う人件費は負担だし、社員に兼務させれば就労負担が大きくなる。道南いさりび鉄道と日本旅行の事例は「観光列車の上下分離方式」として画期的なビジネスモデルだった。
「ながまれ海峡号」は旅行業界が選出する「鉄旅オブザイヤー2016」でグランプリを受賞した。私も審査員としてこの列車を高く評価した。それは、旅行企画として優れているだけではなく、観光列車ビジネスとして業界の参考になると考えたからだ。18年の「ツーリズムEXPOジャパン2018」で、ながまれ海峡号は国内・訪日領域「ビジネス部門」で入賞した。受賞者は日本旅行である。鉄道会社ではなく旅行会社のビジネス手法が評価されたと思われる。
「鉄旅オブザイヤー2016」における「ながまれ海峡号」の評価と筆者の意見。ちなみに「鉄旅オブザイヤー2018」は2月6日に発表される予定(出典:鉄旅オブザイヤー公式サイト)
旅行会社主催の観光列車として、後に続く事例も現れた。北九州の平成筑豊鉄道が18年1月から1年間にわたり、既存の貸切車両を使った観光列車「里山列車紀行ひとつ星」を運行してきた。この列車はJTBが主催するツアーとして12月まで販売された。19年3月からは、新たな観光列車「ことこと列車」の運行を開始する。車両のデザインは数々の観光列車を手掛けた水戸岡鋭治氏、社内ではフランス料理のコースを提供する。1年間の「前哨戦」でノウハウを蓄積して、いよいよ平成筑豊鉄道が本格的観光列車を走らせる。
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