ZOZOが始めた「根拠のある安売り」は、その世界的な「見える化」の流れがひと足先にやってきた、ようにも見える。そう考えると、「ZOZO離れ」という現象もまったく違って見える。「根拠のある安売り」に対する拒否反応、つまり、みんなで長年守ってきた「セール」という商習慣を壊されてしまう恐怖感もあるのではないか。
筆者がなぜそのように考えるのかというと、前澤社長の「先見性」だ。今でこそ月に行くとか、お年玉をあげるとか楽しい話題に事欠かない前澤社長だが、実は過去に「大炎上」したことがある。
2012年10月に、ZOZOを利用した女性がSNSで「配送料が高い」と文句を言ったところ、前澤社長が「注文しなくていい」と乱暴なもの言いで返したことで、ボコボコに叩かれ謝罪に追い込まれたのである。
確かに、言い方は悪かった。が、言っている内容は叩かれるようなものではなく、以下のように、紛れもなく「正論」だった。
「汗水たらしてヤマトの宅配会社の人がわざわざ運んでくれたんだよ」
ご存じのように、「宅配クライシス」が社会問題化したのは17年である。その5年も前から、前澤社長は通販業界に迫る構造的危機と、「荷物はタダで届いて当たり前」という日本の消費者カルチャーに問題意識を抱いていたということだ。
12年当時、前澤社長を擁護する人はほとんどいなかった。それどころか今のように「ZOZO終わったな」「こんな非常識な社長がやってるZOZOはもう利用しません」など完全に迷惑者扱いだった。
前澤社長にもいろいろな問題点があるのかもしれないが、時代の先と、問題の本質を読み解く力があるのは間違いない。そういう異能の経営者を日本はこれまで「出る杭」として社会全体で叩いてきたという動かしがたい事実がある。
叩かれるようなことをするのが悪いという人もいるが、「魔女狩り」ではないのだから、もうちょっと冷静かつ客観的にこういう人たちの主張に耳を傾けてもいいのでは、と個人的に思う。
今は「ZOZO離れ」だと叫ばれ、「前澤社長は引っ込め」と騒がれているが、5年後はどうなっているのか。もしかしたらそのとき、消費者から見離されているのは、「魔女狩り」をあおるマスコミや、いつまでたっても「安売り」に依存しているアパレルなのではないか。
本文中に、Everlane(エバーレーン)の売上高は1兆円を超えている、としていましたが、正しくは「150億〜300億円規模」でした。お詫びして訂正いたします。本文は修正済みです 。【3月1日:8時00分】
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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