佐藤教授が考える就活の仕組みの問題は、「日本では長期のインターンシップが普及しておらず、学生が在学中に(アルバイトなどではなく本格的な)就労経験を積むことができないため、就業の実態を経験できないまま入社せざるを得ないこと」。
「学生はわずかなインターンで得た経験、説明会やOBOG訪問で聞いた話、メディアの報道を通じて得た企業の情報に基づいて就職先を決めるしかないため、いざ働き出して実態を知ると『聞いていたことと違う』と感じる層が出てくるのは必然だ」(佐藤教授)という。
こうした“入社後ギャップ”を防ぐ取り組みは海外の方が進んでおり、「海外では、大学を卒業した若手が『トレーニングプログラム』と呼ばれる長期の就労体験に参加できるケースがある。参加者は企業で実務経験を積めるほか、各部門を数カ月おきに異動しながら適職を探し、『このポジションで働きたい』と納得した段階で応募できる」(同)という。
日本企業の採用と配属の方法にも課題があるという。佐藤教授は「職種別採用ではなく、職種を限定しないで採用する企業が多く、就活生は職種を選択できない状態で就職先を決めざるを得ない。そのため、入社後に希望が受け入れられず『経理をやりたかったのに営業に配属された』『労働環境や人間関係が悪い“ブラック部署”に配属された』といった想定外の事態に陥る若手が出てきてしまう」と指摘する。
これらの問題がある以上、入社前後で勤務先に対するギャップが生じ、環境を変えたいと考える若手が一定数出てくるのはやむを得ないことであり、批判することは意味がない――というのが佐藤教授の考えだ。「むしろ、働いてみなければ企業の実態が分からない状況下で、7割もの若手が会社に残っていることは評価されるべきでは」と同教授は話す。
リクルートキャリアで転職支援サービス「リクナビNEXT」の編集長を務める藤井薫氏も、早期離職する若手を「根気不足」などと安易に批判すべきではないと考えている一人だ。藤井編集長によると、若手の離職は時代背景の変化と密接な関係があるという。
「高度経済成長期は年功序列・終身雇用が当たり前で、同じ商品やサービスを継続的に出すだけで収益が生まれていた。いわば“出せば売れる”状況で、ビジネスモデルを変える必要もなかったため、会社員は同じ環境で働き続けることで習熟すると考えられていた。若い頃に活躍するチャンスが巡ってこなくても、10年ほど我慢すれば良いポジションに就けるケースもあった。早期離職する若手が批判される背景には、こうした時代の名残があるのだろう」(藤井編集長)
「だがその後、国内の産業が収縮したほか、デジタル化が急激に進んだことで“ゲームのルール”が変わった。現代の企業は同じ事業を続けているだけでは勝ち残れず、海外に進出したり、ITを活用したりする必要性が出てきた。若い人はトレンドへの対応力が高く、特にエンジニアやデジタルマーケターなどの職種は習熟度も早い。それなのに、いまだに『我慢すればいつか報われる』という方針のもとで(責任のある仕事や裁量権のある仕事を任せないまま)若手を働かせている企業があるため、彼・彼女らは『成長や活躍が見込める場所に行きたい』と考えるようだ」(同)
こうした理由で離職を検討する若手は、大企業からベンチャー企業に移ることをいとわない場合も多いといい、藤井氏は「ビッグクラブでベンチをあたためていたスポーツ選手が、レギュラーになれる小規模クラブに移籍するのと似た構造かもしれない」とみている。
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