――好きな時に好きな場所で働くABWの導入は、日本でも進んでいくと思いますか?
私たちもABWについて発信していますが、日本の場合、ABWはオフィスの中だけのことだと思われています。そうではなくて、外で働く環境も含めて、選択肢をきちんと作っていくことがABWだと考えています。
働く時間については法制度も関わってきますし、日本の商習慣からオフィスの外で働くことがなかなか難しいのは事実ですが、そこを捉えながらやらないと意味がありません。現時点で言えば、ABWで発揮できる100%の能力の、30%くらいしか日本は活用できていないと思います。
――確かに、オフィスの外で働くことは、部下と上司の信頼関係がなければできないと思います。ABWを活用するのは、日本では難しいのでしょうか。
私は働き方を考えることは、文化人類学を学ぶことに似ていると思っています。働き方はその国の文化や教育制度に影響を受けています。ABWを100%実施しようとして、いつどこで働いてもいいとなっても、日本人全員がいきなりできるわけではありません。
ただし、その働き方が合う人を100人集めれば、その人たちはできるはずです。そういったことを踏まえながら進めた方がいいでしょう。日本の教育制度も変わりつつあり、アクティブラーニングなど小学校の勉強の仕方も変わってきているので、今の子どもたちが成長したときに、文化と合わせて働き方も変わっていくと思います。
その前に必要なのは、働き方についての考え方を社会で作ることです。アメリカはスキルさえあれば、採用や待遇について新卒も中途も関係ありません。オランダは、小学校の時から授業を自分で選択するそうです。勉強したいものを自分で選ぶので、能動的な動き方ができます。
これからの日本に合った考え方を作ることで、採用やオフィスの在り方、外の環境の使い方も変わってくると思います。
――それでは働き方についての考え方を、日本はどういう方向で探っていけばいいのでしょうか。
現状では働き方やワークプレイスに関する研究や開発に、日本はあまり力を入れていません。どこがこれまで研究や開発をけん引してきたかというと、オフィス家具メーカーを挙げることができます。日本オフィス家具協会(JOIFA)には、2018年7月現在で107社が加盟しています。
これは加盟社数が65社だった当時の数字ですが、全社で2400億円の売り上げがあるうち、研究開発費は26億円と1%程度しかありませんでした。日本には6700万人の労働人口がいるのに、その人たちの働き方の研究費が26億円だと思うと、ものすごく少ない。
しかも企業としては同じ環境を社員全員に与えようと考えるので、平均化された、標準化されたプロダクトが求められてきました。万人受けするものは70点か80点はとれますが、その人にとっての100点にはなりません。残念ながらそれがいままでの日本の働き方やサービス、製品の作られ方でした。
しかし、これからパーソナライズ化は、重要なテーマになってくると思います。これは一つの例ですが、ソニーがアロマスティックという製品を開発しています。アロマは空間に広がるので、嫌いな人からすれば不快ですよね。でもこの製品は筒状になっていて、周りを気にせず自分の好みの香りを楽しむことができます。
この製品のコンセプトは、自分に合ったものを、自分だけが使えるというものです。働き方も同じで、この考え方は多様な働き方の実現につながってくると思います。
6700万通り、一人ひとりに合ったオフィス家具やサービスを作るのは難しいかもしれませんが、今限られた数だけある優れたものを、もっと広げていくことはできるはずです。働き方を支え、生産性を上げるためにも、研究や開発はもっと増えるべきだと思います。
――ABWなどの働き方は、東京など都市部では議論になっていますが、地方にも可能性があると思いますか?
田舎で働きたいという人は、これから増えてくるのではないでしょうか。ワークスタイルをテーマにした世界的なカンファレンスイベント「WORKTECH」が昨年国内で初めて開催されました。その中でさまざまな登壇者が口にしていたのが、「アライメント」という言葉でした。
――どのような意味ですか?
バランスをとる、均衡をとるという意味です。デジタル化が進んでいるので、バランスをとるためにオフィスに観葉植物を用意したり、東京で働いている人が田舎で働いてみたくなったりするということですね。人間にはバランスを取ろうとする性質があるようです。
田舎には仕事がないと言われますが、どこでも働こうと思えば働ける時代になってきました。そこに働ける環境さえあれば、行ってみようという人も出てくるのではないでしょうか。働き方という部分で人を呼び込むことに力を入れていけば、地方は今後面白くなると思います。
それと副業がもっと認められるようになるといいですね。副業が可能になれば、本業がある人でも自分が育った地元の活性化に関わることができます。地元に貢献したいと考える人は、かなりいると思います。地域を盛り上げていく動きは、東京の都市よりも地方はやりやすいのではないでしょうか。
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