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「上司なし、評価はメンバーがお互いに」 そんな「管理ゼロ」組織は実現できるのか――ネットプロテクションズの挑戦(2/4 ページ)

» 2019年03月27日 10時00分 公開
[やつづかえりITmedia]

「競争ではなく協調」を促すための評価と給与制度

「評価」の意味付けを変えたもう一つの狙いには、組織の心理的安全性を高め、競争意識を排除することで、会社と個人の成果・成長・幸福を両立しようということがある。

 「一定期間の業績や目標達成度を評価し、昇格・昇給に反映させる」というよくあるやり方は、競争意識を引き起こし、成果が見えやすい業務とそうでない業務の間での不公平感、目標以外のことに目が向かない……といったさまざまな不都合や不満を生み出す。

 秋山さんは、「(不満や不公平感を生まないように)個人の成果を精緻に評価することや、限られた資源を奪い合うような形で報酬を配分する――といったことに手間をかけるのではなく、その人がどう成長していきたいのか、どうやったら自分のやりたいことを実現できるのか、そういうことに時間をかけたい。それが個々人の幸せにつながるはずだ」と考え、制度に落とし込んだと話す。

 新たな人事制度では、基本給の水準は「成果」ではなく、「能力によって絶対評価で位置付けられるグレード」で決まる(成果は賞与に反映する)。グレードはバンド1〜5の5段階、求められる能力の基準は11のコンピテンシーとして定義され、それをどれだけ満たしているかを360度評価で複数の立場から判定し、それを元に評価委員会で上位バンドへの昇格有無を決定することになっている。

 先に紹介した毎月の1on1は、「ディベロップメント・サポート面談」と名付けられており、コンピテンシーと照らし合わせながら、本人の成長を支援するための相談やアドバイスをする。

 次回の面談者への申し送りを目的としたログを残すことになっているというが、人が変われば見るポイントもアドバイスの中身も違ってくるだろう。それで当人は混乱しないだろうか?

 秋山さんは、「評価のための面談の場合、人によって言っていることが違うのは不満の元になる。でも成長へのアドバイスであれば、いろいろな観点から異なることを言われたとしても、それは一つの意見として自分のプラスになるものを選択しようという気持ちになれる。それが『成長支援』を目的においたことで可能になった」と述べた。

 同社では以前から、「一人の社員がさまざまな立場の社員と関われるようにする仕組み」を意識的に作っている。例えば、新入社員一人につき、複数の先輩社員がメンターになる「ファミリー」という制度や、通常はコーポレート部門が担うような業務を手を挙げた社員がメイン業務とは別で行う「ワーキンググループ」などだ。

 こうした部門横断の関わりを作ることで、例えば所属部署の上司や先輩とそりが合わなくても、「自分はこの会社には向いていない」と判断して辞めてしまうようなことがなくなり、それが離職率の低下にもつながっているという。

今の課題を洗い出すのではなく、これからのオフィスに求められるものを

Photo オフィス移転のプロジェクトリーダーを務めた赤木俊介さん

 秋山さんが新人事制度の構想を練っていた2017年の夏頃、同社は社員の増加に合わせて広いスペースに移転することを決めた。

 オフィスを新しくするというと、まずは今までのオフィスについて社員が感じている不満や課題を洗い出してそれを解消するという手順を踏むのが一般的だが、オフィス移転プロジェクトのリーダーである赤木さんは、それをしなかった。

 その代わりに、「ネットプロテクションズがオフィスに求めるものはどんなものか」を考えることにしたのだ。

 最初に行ったのは社員を巻き込んでのコンセプト作りだった。

  • 自分らしさとネットプロテクションズらしさはどんな関係?
  • あなたがネットプロテクションズにいる理由は?
  • あなたにとってネットプロテクションズとはどういう存在か?

 ――このような、個人と会社との関係についての問いについて、入社1〜3年目の若手、ミドル層、ベテラン層という年次を混ぜたグループを作ってディスカッションをしてもらった。すると、年次によって傾向が見えてきたという。

 「以前から会社の方針として“個人の自律”を掲げているネットプロテクションズには、『やりたいことや目指す方向性』があって、この会社を選んでいるメンバーが多いんです。それでもディスカッションで出てきた言葉を見ると、年次の高いメンバーの方がこの会社でやりたいことと人生で成し遂げたいことがシンクロしていました。

 どこでもやっていける能力があるけれど、あえてこの会社を選んでプロジェクトに参画している、というようなスタンスです。

 若いメンバーはそこまでには至っておらず、どちらかといえば『所属することで機会を与えられている』という状況です。それが悪いわけではなく、“成長と共に徐々に自分の志が明確になっていくもの”だと思うのです。ただ、それが他社への転職などで実現するよりは、社内でいろいろなことに参加していく中で自己実現につながるのが理想です。

 そう考えた時に、重要なものは『会話』なのではないかと気付きました。それぞれのやりたいことは何か、なぜこのプロジェクトに参加しているのか――。そんなことが話し合われることで、より個人のビジョンや、この会社に所属している意義のようなものが明確になってくるのではないか、と考えたのです」(赤木さん)

 ディスカッションを進める中で、会社がもう一歩成長するためには、社内の「会話」が重要であると同時に、社外からの刺激を取り込んで生かせるようになることも重要だと気付いたという。そういった現状を整理した結果生まれたのが、会社の「今」、それに“志“や”社会”という要素を加えた「次」の状況を表した図だった。

 「次」の図からは、個人と会社のさらなる成長を促そうという意図が感じられ、「成長支援」を打ち出した新人事制度とかなりリンクしていることが分かる。新人事制度と新オフィスは同時期に検討が進められていたが、相互にすり合わせをしていたわけではないという。それでも方向性が一致しているのは、双方が本質を捉えようとした結果だろう。

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