オフィスの具体的なデザインに当たっては、先の「今と次」の図をいくつかの会社に提示し、デザイン提案のコンペを行った。抽象的な図の意図を捉えて具体的な提案に落とし込むのは難しそうだが、そういった難題に楽しんで取り組めるパートナーかどうか、というところも見極めたかったのだという。
その結果、「ABT=Activity Based Talking」というキーワードを掲げ、人と人との接触が自然に起きるゾーニング、オフィスの周りをぐるっと囲んで会話を誘発し、そこにいる人達のつながりを感じさせる長いベンチを取り入れたデザイン案が、プロジェクトメンバー全員の一致で選ばれた。
そこから、「Activity Based Talking〜働くというより話そう〜」をコアのコンセプトに具体的な設計が進められていった。
例えば、受付のあるフロアには、来客が打ち合わせの後などにそのままコワーキングスペースとして使用できたり、社外の人を招いてのセミナーを開いたりできる広いスペースを作り、「社会との接点を広げよう」という考え方を具現化した。
また、正社員は固定席を持たず、部署ごとに決まったエリアを自由に使う「グループフリーアドレス制」を採用。先述の通り、各自が所属部署以外の活動も活発に行う同社ゆえ、個々の自席を居心地の良いものにするよりも、フレキシブルに動き、あちこちで話がしやすい場所づくりを重視した。
フリーアドレスになると、デスクの上に私物を置きっぱなしにすることはできない。そのため、新オフィスでは個人ロッカーや傘立て、コート掛けなどを1カ所に集積した「げたばこ」と呼ぶ場所を作った。フロアは3階層に分かれているが、出社時と退社時に全員がここを通るため、互いがあいさつする頻度が増えた。その結果、正社員はもちろんパートナー企業の人や派遣社員なども含めて顔見知りが増え、赤木さんは心理的安全性の高まりを実感しているそうだ。
また、以前のオフィスでは「会議室が足りない」という不満があがっていたが、従来型の会議室の数を増やすことはあえてしなかったという。
同社では、社員のキャリアビジョンなども含め、情報をできるだけオープンにしようという姿勢がある。今後もよりオープンな会話を促進するために、クローズドな会議室を増やす必要はないと判断したのだ。
その代わりに、ちょっとした立ち話から気軽な打ち合わせ、勉強会など、シチュエーションに合わせたさまざまな形の場が備えられた。目を引くものとしては、車座で向かい合うブランコもある。取締役がブランコに座って予算の話をしているのを見たときは、赤木さんも驚いたそうだ。
「いろいろなミーティングのスタイルを想定し、それに合わせた場所をいくつも用意しましたが、社員に対して『ここはこういう使い方をする』という説明は、あえてしていません。自分たちで『こういう使い方が使いやすい』と気づいてくれればいいし、それこそブランコに座って予算の会議をするなど、われわれの想定を超えるような使い方がでてきたら、それもありだと思っています」
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