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間違った方向に行きかけたとき、プロジェクトを止める勇気を持てるか――「東証を変えた男」が考えるリーダーシップの形日本郵便の専務が語る(2/4 ページ)

» 2019年04月27日 07時00分 公開

中野: 金融業界は規制が多いこともあり、保守的な人が多い印象を受けます。そんな中でシステム開発の在り方を根本的に変えていくとなると、社内にさまざまな抵抗もあったのではないでしょうか。

鈴木: 幸か不幸か、当時の東京証券取引所は世の中から相当バッシングを受けていたので、変わらざるを得ないタイミングでした。ですから、社内に抵抗勢力はいなかったですね。世間から集中砲火を浴びている中で、反対意見を言うことは許されないという雰囲気でしたから、逆に言えば変化を起こすにはちょうどいいタイミングだったとも言えます。

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中野: 大きな会社は、危機的状況に追い込まれないとなかなか変われませんからね。

鈴木: そうなんです。どれだけ大きな会社でも、どんなに保守的な会社でも、行くところまで行ってしまったら、もう変わるほかないのだから、むしろ、あえてそういう状況まで持って行くというのもありだと思うね。ちまちました対策なんてとらないで、行くところまで行かせてしまう。

中野: 「何となくやれてしまっている状況」というのが一番良くないですよね。現状の改善を延々と続けることによって、本質的な課題や構造上の問題が覆い隠され、いつまでたっても議論の俎上に上がらないんですよね。

 いったん破綻しないと、それが当たり前だと思って気が付かないのかもしれません。現場レベルで何とかしてしまうことによって、事態の深刻さが経営レベルに伝わらず、気付いたときには症状が深刻な状態になっていた――というのは良く聞く話です。

 最近、いろいろな企業の方から話を聞く機会があるのですが、システム系の問題は、「早期発見、早期解決」をするに越したことがないのが分かります。でも、往々にして症状が顕在化して打ち手が分からない状態になってからしか動き出せないケースがほとんどです。

 例えば、Web企業は突然、急成長するようなケースも多く、前年対比で30〜50%という成長率の企業も珍しくありません。もちろん組織もそれに合わせて大きくなるわけです。2〜3年で会社が倍以上の規模になることもありますし、経営ですら予測や制御ができない成長を遂げるケースも少なくありません。そうなると、会社の仕組みの構築が成長に追い付けないわけです。

 成長の兆候や、それに伴うゆがみの症状が出てから慌てて動いてももはや遅くて、施策は後手に回ってしまう。いきなり加速するものだから、単純な積み上げと過去の経験からの計画が通用しなくなってしまうのです。

 会社の初期段階では、直接、利益につながる分野への投資が重視されます。その結果、ミドルからバックエンド系、基盤系への投資が後回しにされがちなところに「急激な成長」がくる。基幹系への投資は効果が出るまでのリードタイムが長いので、後回しにすればするほど対応が難しくなるのに、一歩遅れるとがあとで大きなツケが回ってきます。

 ある程度までは、その場しのぎの施策と人海戦術、応急処置でなんとかできるかもしれませんが、従業員が1000人を目前にしたあたりで行き詰まる。組織が肥大化し、それに伴ってプロセスも複雑化するので、現状把握すらままならなくなるわけです。このパターンが非常に多いように思いますね。

Photo 日本郵便 専務 CIOの鈴木義伯氏

鈴木: そういう意味では、日本郵便も多くの課題を抱えています。政府系の組織はどこもそうなのですが、過去からのトレンドをベースに事業計画を立てるので、大胆な変化をなかなか起こせない。従って変化を起こすためには、過去を基準にするのではなく、「将来、どういう地点に到達したいのか」という考え方に転換する必要があります。そういうアプローチが、とても下手だと感じています。

 こうした状況を、外部から来た日本郵便の社長、横山邦男が音頭を取って、今まさに変えようとしているところです。横山さんは今、「10年先、どうなっていたいのか」というTobeドリブンな考え方を浸透させていて、10年後のあるべき姿に向かって計画や実績を積み上げていこうという構造に日本郵便は今変わりつつあります。もちろん、一挙には変われないのですが、徐々にそういう機運は高まっていると思います。

中野: 「現状の課題をどう解決していくか」というところから議論をスタートさせると、どうしても積み上げになってしまいます。積み上げ型、素朴なボトムアップアプローチは案件が小さい時や最初のうちはいいのですが、結構すぐに複雑性が高くなりスケールせずに破綻しがちです。初手はともかく2手目、3手目で詰む。そうではなく、将来のあるべき姿をゴールとして設定して、その達成を目的に据えると議論の質も自ずと変わってきます。

鈴木: 全然変わってきますよね。

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