ボルボV60クロスカントリーとプロジェクトE.V.A.池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/5 ページ)

» 2019年05月06日 07時15分 公開
[池田直渡ITmedia]
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協調と協業の時代

 さて一度話は変わる。ボルボは3月22日に「プロジェクトE.V.A.」を発表した。以前から自動車の安全をリードしてきたことを自負するボルボだが、今回のプロジェクトでは安全に関する知識を集約したデジタル・ライブラリーを、誰でも容易に利用できるように公開した。ボルボ自身の説明によれば「人命を救うための知識を共有して安全性の向上に役立てる」ことを目的として、3点式シートベルトの誕生から60年の節目にあたる今回、このプロジェクトを立ち上げたのだと言う。

安全に関するボルボの60年間に及ぶ論文などを公開し、「人命を救う」ために広く利用できるようにする新プロジェクトがスタートした

 ボルボは、ボルボ車に乗車中の死亡事故を20年にゼロにするというビジョンを掲げて来た。もちろんビジョンはコミットメントとは違うが、来年達成できるかといえばそれは現実的に難しい。

 そういう現実に対してボルボは、3つの対策を打ち出した。全てのクルマに時速180キロのリミッターを装着。車内カメラによるドライバー監視によって、飲酒や薬物使用、注意散漫などへの対応。さらに「ケア・キー」と名付けられた新たなシステムを導入し、このキーを使って自分以外、例えば子供が運転する際に所有者が独自の速度制限を設けられるようにした。

 これらによって死亡事故がゼロになるとはいえないが、おそらくは死亡事故の軽減には役立つだろう。

予備キーに対してオーナー自らが速度制限を設定することができる新たなシステム「ケア・キー」。家族でクルマを共有する際に、ドライバーの運転力量などに応じた速度制限を設けることでより安全性を高めるシステム
フロントウィンドー上部に設置したイン・カー・カメラによりドライバーの状態を確認するシステムがまもなく搭載されるという

 筆者はこれらの説明を聞いて、自動車産業全体が新しいフェイズに突入したのではないかと感じた。ボルボは長い間「安全」を最大の特徴としてきたわけだが、プロジェクトE.V.A.では、自社の長年の研究論文を、「人命を救う」という社会的意義のために公開する。それはトヨタが地球環境改善のために、ハイブリッドの特許を無償提供するという話と重なって見える(4月15日のトヨタハイブリッド特許公開の記事参照)。

 資本主義社会で、激烈な競争を演じて来た自動車メーカーが、自社の都合を超えて、自動車産業全体の社会的問題を解決するために、これまで占有してきた技術を競合社に供与する新しい動きが始まっているのではないか?

 それは新たな協調と協業の時代の始まりを示しているように思う。

筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)

 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。

 以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。


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