クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

テスラModel 3をどう評価すべきか?池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/5 ページ)

» 2019年06月03日 07時07分 公開
[池田直渡ITmedia]

自動車史に貢献したテスラ

 しかし、それらのモラルハザードを差し引けば、テスラが成し遂げて来たことの本質は評価に値すると筆者は思っている。

Model 3の外観は特に電気自動車らしいところはない

 テスラ以前の電気自動車(EV)は、正直パッとしなかった。少なくともこの30年、EVの設計の狙いはエコであった。ところがバッテリーのエネルギー密度はガソリンと比べて100分の1程度しかない。別の言葉で言えば重量あたりのエネルギーが少ない。もちろんガソリンのエネルギーを100%動力にすることは不可能で、一般的には効率30%。最先端のものでも40%程度が限度である。ちなみにハイブリッドを使えば55%くらいまでいけるらしい。

 さて、厳しく30%の数値を採用したとして、この変換効率補正値を掛けても30倍の差になる。つまり同じエネルギー量を搭載したければ、燃料重量の30倍程度の重量のバッテリーを搭載しなければならない。

 ガソリンの比重は0.75程度だから、コンパクトカーの40リッタータンクに給油されるガソリンの重量は30キロ。同じエネルギー容量のバッテリーを積もうと思ったら、計算上900キロになる。そんな重さのバッテリーを積んだら加速の度にとんでもなくエネルギーを食うので、仕方なく航続距離の方を削ることになる。概ね1000キロ程度の航続距離を5分の1程度まで削れば、180キロ程度のバッテリーになって、これならギリギリクルマとして成立する。

 真面目な自動車技術者たちは、ちまちまと電気を節約し、可能な限り軽量なバッテリーを設計して、エコなクルマを造ろうと地味な研究を続けていた。

 しかし高価なバッテリーを使い、車両価格が高級車並みなのに、遅くて重くて航続距離の短いEVなど誰も欲しがらない。だから普及しなかった。

 そこにコペルニクス的転換をもたらしたのがテスラである。どうせ安くならないならそれに見合うだけ速くて高級なクルマに仕立てればいいじゃないか。そういう逆転の発想でテスラは大容量バッテリーを搭載し、重さを物ともせず、びっくりするほどの加速を持たせた。それはつまりプレミアムEVというジャンルの確立を意味していた。

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