クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

テスラModel 3をどう評価すべきか?池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/5 ページ)

» 2019年06月03日 07時07分 公開
[池田直渡ITmedia]
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生産遅れの影響は排除できるのか?

 ところが問題が発生する。昨年ニュースをにぎわした通り、テスラは自慢のロボット生産ラインをうまく稼働させることができず、生産が大幅に遅れた。

カリフォルニア州フリーモントにあるテスラの工場。ロボットによる高度な自動化を目指したが、うまくいかなかった(写真:ロイター)

 このあたりにモノづくり企業としての経験の浅さが露呈したことになる。例えばトヨタは自動ロボットの使い方が全然違う。彼らはラインを設計するとき、まず全てをベテラン作業者が手作業でやる実験ラインを作る。ベテラン作業者のノウハウによって、どう組み立てるかを徹底的に検討して、そのやり方をロボットに模倣させるのだ。

 「ロボットは自分で工夫できないですから」とトヨタ幹部は言う。例えば10ミリの穴に9ミリの丸棒を押し込む工程を、ロボットの開発会社に設計させると、高精度センサーで穴のセンターを計測し、高精度なアクチュエーターで周囲に0.5ミリのクリアランスを保って部材を差し込もうとする。

 「そんなことやっているから金ばっかりかかって信頼性も生産性も上がらなくなるんです」と笑うのは前述のトヨタ幹部だ。「人間だったら、穴の端に丸材を当てて滑り込ませるでしょ? そうしたら反対側は1ミリも空くんです。簡単な話でしょ。あとはそれをロボットにやらせればいい。端に当てるだけなら高精度センサーもアクチュエーターも要らないから安くなるし、しょっちゅうラインを止めてセンサーやアクチュエーターの精度ズレの補正もしなくていいんです」

 テスラが自動生産を目指した代償は大きかった。米紙でFBIの捜査を受けたと報じられるほどの大問題に発展したのだ。そもそも実現不可能な生産計画で、投資家を偽ったという疑いをかけられたのだ。これを退けるためには、なんとしても増産しなければならない。テスラはラインを増設し、イーロン・マスクCEO自らが泊まり込んで陣頭指揮に当たった。

 さて、ここで大問題が発生したはずだ。生産開始後のラインの増設などモノづくりではあってはならないことだ。それは原価計算を大幅に狂わせる。ラインを追加したらModel 3を3万5000ドルで売ることは本来不可能なはずだ。しかし、それでも価格の破壊こそがModel 3に課せられた使命であり存在意義だったのである。

 テスラは3月に、約束通り3万5000ドルのスタンダードレンジをリリースすると発表した。Model 3の評価は、それが本当に制限なく販売されるかどうかにかかっている。

 スタンダードレンジのみ極端に納期が遅いとか、早期に廃盤になるとか、そういうことが起きなければ、テスラはその掲げた計画通り、プレミアムEVメーカーからの脱却を果たすことになり、EVの可能性を大きく広げることになるだろう。

 次週は、Model 3の走行性能や、オートパイロットなどの評価を含めたインプレッションをお届けする予定である。

筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)

 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。

 以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。


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