ところが実際の状況は、逆方向に動き始める。『AKIRA』の実写映画プロジェクトは引き続き練られ、そして今回の撮影開始と公開日スケジュールの決定となった。ではなぜ『AKIRA』の企画は再びよみがえったのか、さらに実現にたどりつくまでこんなにも時間を要したのだろうか。それは「2019年」というタイミングに原因がある。
『AKIRA』ほどでないが、長年動きが止まっていた日本マンガ・アニメの実写化プロジェクトが急に動き出す例がここ数年、続いている。
木城ゆきと氏の『銃夢』を原作とした『アリータ: バトル・エンジェル』は、『タイタニック』で空前の世界的ブームを巻き起こしたジェームス・キャメロンが監督となることを目指していた。映画化が最初に浮上したのは03年。一時は、キャメロンが監督として『アバター』と本作のどちらを優先するか検討されていたほどだ。
結局キャメロンは『アバター』を取り、これが大ヒット。その後は続編も監督することになる。それでも『アリータ: バトル・エンジェル』は捨てがたく、自身がプロデューサーになることで2019年公開となった。
『攻殻機動隊』は、プロダクションI.Gが実写映画化交渉を発表したのが07年である。ドリームワークスが製作する『ゴースト・イン・ザ・シェル』の公開は17年だから、企画実現までに10年を要した。
これらの動きは、日本の作品に対するビジネスの期待値が近年急速に高まったことに原因がある。ニッチであった日本アニメ・マンガがメジャーへ飛び出したのだ。90年代から2000年代にかけての人気は若者の物で、映画化の企画を若いプロデューサーや監督が進めても、年配のエグゼクティブは日本作品の内容も人気であることも知らない。知らない物にGOサインは出ず、企画は実現しなかった。
10年、20年の時が流れ、映画会社のエグゼクティブにも、日本アニメを見た世代が増えている。自身が昔に知っていたものであれば、作品への理解は早い。
さらに『ポケモン』や『ドラゴンボール』『攻殻機動隊』といった作品は何度もテレビ放送され、世代を超えた認知を獲得していった。そして起きたのが、2010年代に急激に進んだインターネットでの動画配信の革命だ。アニメは手頃な価格で、簡単にアクセスできるようになったことで視聴者のリーチを一挙に広げた。作品を支持するファンのボリュームも拡大し、それが映画化に説得力を与える。
「時は来た」というわけである。これまで埋もれてきた大型プロジェクトが、次々に動き出した理由だ。
もう1つ見逃されている要因に、中国市場の役割があるはずだ。「また中国マネーか?」と思う人もいそうだが、ここでは製作への投資でなく、消費者マーケットの話である。
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