『AKIRA』の映画化は可能性が低かったわけではない。むしろ日本コンテンツのなかでは実現性の高いものの1つであった。特にジャウム・コレット=セラ監督、ギャレット・ヘドランド主演とするバージョンは、撮影直前までいったとされる。これまでにネット上に流出した数々の設定や関係者の発言からもこの企画がかなり進んでいたことがうかがえる。
しかしこのプロジェクトは2012年に最終的に中止になった。出資するワーナー・ブラザースが、増大する製作予算の回収の見込みが薄いと判断したためだ。この決定は、長年映画を待ち続けてきたファンには、夢が最終的についえたものに思われた。そこまでプロジェクトが進みながら中止されてしまい、その原因が製作資金回収の見通しという致命的な点だったとしたら、この状況をさらに打ち破れるものはあるだろうか?
製作資金に対する回収の見込みという問題は、日本コンテンツのハリウッド映画化にあたってたびたび障害になってきたものだ。大きな予算をかけて製作した時に、それを取り戻せる大衆性が日本コンテンツにあるのか、投資家は疑念を抱いていた。
それには明確な理由もあった。有名監督が関わりながら、思ったような成績を残せなかった日本コンテンツの実写化作品の例もあるのだ。08年公開の『スピード・レーサー』は、1960年代の日本アニメ『マッハGoGoGo』を原作にしている。タツノコプロのアニメらしい無国籍風の設定に、鮮やかな色彩設定、作品は至るところにラナ&リリー・ウォシャウスキー両監督による原作へのリスペクトに満ちていた。しかし1億2000万ドルとされる製作予算に対して、北米興行は4300万ドル、世界興行でも9300万ドルと期待外れだった。
アニメとマンガであれば米国でも大人気の『ドラゴンボール』を実写映画化した、2009年公開の『DRAGONBALL EVOLUTION』もある。こちらの北米興収は1000万ドルに届かず、興行はかなり厳しかった。
00年代以降も長い間、欧米では 日本アニメ・マンガは巨大ではあるが、ニッチ(隙間)なジャンルと見られてきた。00年代に浮上したものの、実写化にたどりつかなかった作品は数多い。そのなかには浦沢直樹氏のマンガ『モンスター』、久保帯人氏の『Bleach』、岩明均氏の『寄生獣』、アニメでは『超時空要塞マクロス』『獣兵衛忍風帖』『新世紀エヴァンゲリオン』などがある。『AKIRA』の企画も、こうした作品の1つとして歴史の中に埋もれていくかと思われた。
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