EVへの誤解が拡散するのはなぜか?池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/6 ページ)

» 2019年08月26日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

記事で省かれた大事な要素

 問題はややこしい。「日本沈没のXデーが再来年」と受け取るのは、最終的には読者の誤読であるが、記事の形は誤読を誘発するようにでき上がっている。それは調査から読者がイメージするところまでの間で、伝言ゲームのように前提条件の欠落が発生し、そこに先入観による補強が加わって引き起こされている。

 そういう報道が繰り返されるのは、今の日本の自動車産業界にとって、さらに日本経済にとって非常に大きな障害ともいえる。ただでさえ悲観的に物事を受け止める癖のある日本人に、悲観的なニュースを送り続け、世相をますます暗くしてどうしようというのか?

 そういう報道が無邪気な無知によるのか、悪意によるのか、あるいは商売としてその方がメリットがあるのかは、おそらく渾然(こんぜん)としており、実態は紙一重だと思っている。今回はこの記事を一例として、何でそんな日本経済の悪い未来を書き立てる記事が繰り返し掲載されていくのかを検証してみたい。

 まずは基本的なところから。「THE SANKEI NEWS」がベースにした富士経済のリリースはこれだ。リリースを読むと、同社が再来年HVとEVの販売台数が逆転すると予測するには、重要な前提があることが分かる。

「※トラック、バス、超小型モビリティを除く。また、HVは48VマイルドHVを含まない」

これがあるとないとでは話の前提が変わってしまう。

富士経済の調査では、「HVは48VマイルドHVを含まない」として集計されている

 つまりは、いわゆるストロングHVといわれる、「モーターのみで自走できる」HVだけをHVに定義しており、マイルドHVはカウントしないことが述べられている。どういうことかといえば、おおむねトヨタとホンダのHVだけを抜き出して、全世界のEV総数と比べているわけだ。

EVは今の所環境問題のキラープロダクツではない

 現在、欧州のCAFE規制に範を取ったCO2削減規制が世界的に広まりを見せており、自動車メーカー販売台数1台あたりのCO2排出量基準が設けられている。この規制は平均値で網がかけられる。EVは確かにゼロエミッションだが、問題は全販売車両の平均値だ。1%や2%、ゼロエミッションのクルマを作ったところ平均に与えるインパクトはしれており、クリアできない。

 条件分岐が複雑なので詳細は割愛するが、30年のCO2排出規制値は現状の約50%程度になる見込みだ。これは法案として可決されたが、確定はしていない。

 EVのみによって50%削減を達成するならば、世界中の全てのメーカーが、販売台数の半分をEVにしなくてはならない計算になる。そのためには、エンジン搭載車の購入価格がEVより高くなるように罰金を設けるしかないだろう。50%がEVになる世界で、EVを安くするために補助金をつぎ込むのは財源的に不可能だ。

 価格の高いEVを半数まで無理矢理にでももっていこうとしたら、クルマの最低価格は300万円程度になる。庶民はクルマを購入できなくなり、クルマは今以上に限られた金持ちのものになる。そうなればグローバルな新車販売台数が現在の半分以下まで落ち込むだろう。

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