EVへの誤解が拡散するのはなぜか?池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/6 ページ)

» 2019年08月26日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

EVが期待されるのは世界の環境規制があるから

 この規制がいかに厳しいか。今適用されている18年規制は130グラムなのだが、現時点で20年のCO2規制値(95グラム)を先取りしてクリアできている会社は1社もない。

 確かにEV専門のメーカーはこの例外だが、それらの会社のカタログには100万円や200万円で買える庶民のクルマはラインアップされていない。現状EV用のバッテリーコストは200万円から300万円といわれている。日産のEVであるリーフのバッテリー小(40kWh)モデルは324万円、大(62kWh)が416万円という車両価格を見れば、まあそんなものだろうと思われる。要するに新車でEVを所有できるのは、今の世の中でいえば富裕な人たちだけで、だから台数が売れない。それは現時点では間違いない事実である。

 それに対して、EV推進派の人たちは「必ず価格低減が起きる」というが、それはもう長らくいわれているので、本当に起きた時に教えてくれというのが多くの消費者の本音だろう。

 さて、現状をベースに考えると、CO2削減はEVだけでは難しい。EVが必要なのは疑う余地がないが、他の方式を排除する思考はすこぶる非建設的だ。単純な算数の問題だ。現在グローバルでEVのシェアは0.1%程度。それが完全なゼロエミッションだとしても、CO2は0.1%しか削減されない。未来への可能性は評価するとしても、現状はCO2削減に全く役立っておらず、誤差に飲み込まれる実績でしかない。キラープロダクツのイメージとは程遠い。

 一方、あとで論拠を説明するが、マイルドHVなら3.2%の削減が可能になる。そもそもマイルドHVとはモーターがエンジンの補助程度の出力しかなく、モーター単体では走行が不可能なクルマをいう。ストロングHVに比べてCO2削減効果は低いが、値段も安い。マイルドHVの代表であるスズキの「S-エネチャージ」搭載車と非搭載車は、装備も違うので直接比較はできないが、カタログ価格の差が10万円ほど。つまりシステムは少なくともこれ以下の価格、おそらくは7万円から8万円程度ということになる。仮に8万円として話を進めよう。

スズキのマイルドハイブリッドシステム「S-エネチャージ」。36Wh〜120Whといった低容量のバッテリーを使いコストを抑えている

 S-エネチャージ発表時の資料を見ると、燃費向上率は8%とある。8万円の価格増加なら、庶民向けの価格帯でも吸収可能だろう。何より20年規制が95グラムに確定してしまっている以上、世界の取り決めを無視するわけにはいかない。もちろん8万円は高いという人もいるだろうが、では200万円高いEVと比べてどうなのだといえばこれはもう議論の余地は無い。

 パリ協定が定めた温暖化改善スケジュールを守るためには、何としても平均値を下げなくてはならない。途上国で増え続ける自動車需要を満たしつつ、CO2削減を進めるためには普及価格帯の技術が必須だ。

 ではマイルドHVの燃費削減効果はいかほどかといえば、C02排出量は燃費にほぼ比例するので、S-エネチャージの燃費低減率8%を採用すると、市販車の40%がマイルドHV化されれば、3.2%のCO2削減効果が見込める。「40%は言い過ぎではないか?」という異論もあるだろうが、CAFE規制の基準値はどんどん厳しくなる。

 予定変更がなければ、25年には、20年を基準にマイナス20%、30年にはマイナス40%に厳格化されそうだ。20年までの規制が1キロメートル走行あたりのグラム数で規定されていたのに対し、突然各社の実績値からの削減になるあたり、さまざまなロビー活動が想像されるところだ。

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