EVへの誤解が拡散するのはなぜか?池田直渡「週刊モータージャーナル」(6/6 ページ)

» 2019年08月26日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]
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 大手新聞社の多くは、記者は多分全く意識していないが、ドイツのプロパガンダに強い影響を受けてしまっている。

 例えば、英語では「Electrification Vehicle」と「Electric Vehicle」ははっきり別のものだと認識されているが、日本では前者の訳語である「電動化車両」、つまり「モーターが付加されるクルマ」と、後者の「電気自動車」の区別がメディア側ですら付いていない。海外メーカーは英文リリースの中でこれを都合よく切り替えて使う。タイトルは「初のEVスポーツカーを発表」とElectric Vehicleの文脈で使いながら、本文では「○○年に全ての車両をElectrification Vehicle化する」と混在させる。両者の区別がつかない記者は、「全部がEVになるんだ」と驚いて「日本出遅れ」の記事を書く。

 これまで筆者が書いてきたことを理解すれば、コスト吸収余力のある高級車メーカーが、CAFE規制のクリアのために純内燃機関モデルを廃止することなど当たり前の話だ。純内燃機関では、規制がクリアできない。しかし純内燃機関の代わりに何を使うかというと、それはHVも含む話であって、オールEVなんかでは決してない。

 そういう理解が生まれる背景には、「守旧派のHVと革新派のEV」の構図がこびり付いてしまっていることがある。だから全てをその文脈で読み解こうとする。そしてそれらのメディアの影響を受けた読者もまた、「HVに固執する日本は家電メーカーの二の舞になる」と思い込んでしまっている。

 冷静に考えれば、EVが納車待ちで手に入らないなんてことは、テスラのModel 3でしか起きていないし、知人の情報によればカリフォルニアでの注文から1週間で納車されたという話もある。EVの普及を自動車メーカーが邪魔しているという陰謀論に基づくならば、限られたEVには注文が殺到して納車待ちが起きていないとおかしい。けれどもそんな話は聞いたことがない。納車待ちはむしろジムニーの方がよほど深刻だった。

 そして何よりも欧州が作った非常に厳しいCAFE規制を、トヨタはHVの大量販売でクリアする目処が立っているが、ほとんど全ての欧州メーカーには目算すら立っていない。

 EVは地球環境のためにとても重要な未来技術なのは間違いない。そこは否定しない。しかしそれはまだアーリーアダプターのものであって、普及までの道は長い。だからといって諦めることなく努力を続けていかなければならないけれど、一方で、意図的かそうではないかはともかく、事実を少しずつゆがめて、その結果報道が暴走してほぼデマのように拡散するのはいい加減止めないと信頼されなくなる。

 とりあえず読者諸兄は、21年にEVが内燃機関を叩きのめす未来が本当に来るかどうかをよく見ていただきたい。そしてそういうことを拡散した人たちのことを忘れないことだと思う。

筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)

 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。

 以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。


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