EVへの誤解が拡散するのはなぜか?池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/6 ページ)

» 2019年08月26日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

どれかひとつを選ぶ話ではない

 そして、その時代に純内燃機関車はおそらく存続が難しい。順当に考えれば、時間をかけてマイルドHVが今の純内燃機関の位置にスライドしていくだろう。ただし、問題もある。規制の厳格化に対して、マイルドHVの8%程度の低減で追いつくのかといわれれば厳しいのも事実だ。だからといって大衆車クラスが吸収可能な10万円、20万円程度で実現できる手法で、それ以上にジャンプアップできる有効な手段があるわけでもない。可能な限りのことを粛々とやっていくしかない。「クリアできないんだから、いくら高額でもEVしかない」という理屈はすこぶる社会主義的で、自由経済の世界では相当に異端だと筆者は思う。

 さて、HVがダメだと思われても困るので、そこのところの現状を説明しておこう。トヨタはストロングHVの販売台数が好調なおかげもあって、20年の95グラム規制をクリアできる見通しが立っている。そんな会社はトヨタ以外にほぼない(『自動車メーカーを震撼させる環境規制の激変』参照)。欧州のEVをリードしているはずのフォルクスワーゲンは、規制クリアできていないのが現実だ。

各メーカーの、CO2排出量平均と車両平均重量をプロットした図(=トヨタ資料より)

 トヨタの計画では、30年まではHVを主戦力として規制をクリアし、40年へ向けてはプラグインHV(PHV)で対応。50年へ向けてはEVの比率を一気に高めていかなくてはならない。それまでに何とかバッテリー価格を引き下げようと考えている。まあ常識的に考えて、今200万円のものが再来年に50万円になるとは思えない。10年では難しいけれど20年あればという考えはリーズナブルに聞こえる。

 現在トヨタのストロングHVの熱効率は、ピーク値で55%といわれている。従来のガソリンエンジンが熱効率30%といわれていたことから考えると54.5%の改善だ。特殊な条件で叩き出すピークを抜き出してもしかたないので、ざっくりと40%くらいをリアルな効率と仮定する。その上で、未来の話は分からないので、今われわれの目の前にある選択肢を並べてみるとこういうことになる。

  • EVはCO2削減率100%で最安値324万円(リーフ)
  • ストロングHVはCO2削減率40%で最安値252万円(プリウス)
  • マイルドHVはCO2削減率8%で最安値110万円(ハスラー)

 こうやって並べるとどれが正解か? という話になりがちだが、そうではない。HVの例に、アクアではなくプリウスを挙げたのは、アクアはプリウスの最新システムよりCO2削減効果が落ちるからだ。だがしかし、最廉価モデルは179万円だ。「その値段のハイブリッドなら買える」という顧客層がいるなら、多少旧型で効率が劣っても純内燃機関車両よりはずっといい。最高のものがあれば、それ以外はいらないということではないのだ。トータルの平均値を下げるためには、顧客の所得レベルに応じて、実際に買える「環境技術」を用意し、メーカーはそれらが最終的にどういう比率で売れ、ミックスされて平均値が構成されるかをうまくコントロールしなくてはならない。この現実を前に、マイルドHVを抜きにした数字を出すことに本当に意味があるとは思えない。

 例えば30年時点で筆者が妥当と思う比率を勝手に予想すると、グローバル販売台数の30%が純エンジン車で改善率0%。40%がマイルドHVで8%改善して3.2%削減、20%がストロングHVで40%改善すれば8%削減となる。残る10%がEVで100%改善されれば10%だ。全部足すと21.2%改善の計算になる。現実のマーケットではせいぜいそんなものだと思う。規制値には全く届かないが、300万円オーバーのEVを過半数に買わせるのは、中国共産党のEV無理強い政策ですら不可能だったことを思い起こせばリアルな数字に思える。

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