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テレワークを取り巻く国内外の最新事情特集・日本を変えるテレワーク(2/3 ページ)

» 2019年08月27日 07時00分 公開

技術革新とドーナツ化現象から始まった国内テレワークの取り組み

 国内に目を向けてみる。総務省 情報通信国際戦略局 情報通信経済室が2010年3月付けで公開している「テレワークの動向と生産性に関する調査研究報告書」によれば、テレワークの歴史は35年程度で、1984年以降およそ5年周期でトレンドが変化しているという。

 最初期はまだ実験的な意味合いが強く、当時普及し始めたデジタル情報回線(INS)の活用法を模索するものだった。これが一変したのが80年代後半から90年代初頭にかけてのバブル景気で、都心のオフィス賃料や住宅価格が高騰するなか、郊外に家を持つ従業員らに対して働きやすい環境を提供するためにサテライトオフィスなどが設立されるようになった。

 また、このころは技術革新が進んだ時期でもあり、高精細なテレビ会議システムの登場など、拠点間の距離を縮めるサービスや製品がいろいろ提案されるようになった。

 ただ、こうした技術が広がる前にバブル景気は終了し、折からの不況と人々の就業意識の変化でテレワークの試みはいったん停滞することになる。テレワークの流れが復活するのは95年以降のインターネットやPCブームを経てのことで、オフィスや個人にPCが広く行き渡り、業務を支援するアプリケーションが数多く提供され、業務改善が進むなかでテレワークの機運が再び高まってきたことに由来する。

 それ以後の変化は多くの知るところだが、PCの主力がデスクトップ型からノート型へと変化し、通信技術の進化は有線LANから無線LAN、ネットワークを活用した場所を選ばない接続環境、VPNを活用した安全な社内ネットワークへのアクセス、そしてスマートフォンやタブレットなど本当に場所や時間を選ばないデバイスの登場と、テレワークの下地は本格的に整いつつある。

 かつてエネルギー問題や公害問題、通勤による時間ロスに端を発したテレワークの登場が、現在ではさまざまな働き方のスタイルやニーズを取り込む形で、より幅広い問題解決を行う手段となりつつある。

 優秀な人材を確保し続ける取り組みの一環としてスタートした側面の大きい日本国内のテレワーク制度だが、人口減少時代を見据えての新たな労働力の確保、都市圏への人口集中が進むなかでの地域間格差の是正と、通勤ラッシュの軽減といった側面に変化している。

 また、2006年9月の第165回国会にて行われた安倍内閣総理大臣所信表明演説では、成長に貢献するイノベーション創造に向けた長期の戦略指針「イノベーション25」を表明し、この中で高速インターネット基盤を戦略的に活用してテレワーク人口を倍増させ、生産性の大幅向上を図っていくと述べている。

 総務省の調査報告でも触れられているが、問題解決型のテレワーク活用から、より戦略的にテレワークを活用していくことで生産性の向上や国の活性化を図っていくことが明確に指針として出されており、「テレワークを行うことで何ができるのか」ということを国全体で模索していこうとしている。

テレワークの実態

 もう少し国内テレワークの現状についてみてみる。総務省の定義によれば、テレワークは「雇用型」と「自営型」で主に2種類の形態があり、作業形態によってさらに細分化される。

  • 雇用型――企業に勤務する被雇用者が行うテレワーク
    1. 在宅勤務:自宅を就業場所とするもの
    2. モバイルワーク:施設に依存せず、いつでも、どこでも仕事が可能な状態なもの
    3. 施設利用型勤務:サテライトオフィス、テレワークセンター、スポットオフィス等を就業場所とするもの
  • 自営型――個人事業者・小規模事業者等が行うテレワーク
    1. SOHO:主に専業性が高い仕事を行い、独立自営の度合いが高いもの
    2. 内職副業型勤務:主に他のものが代わって行うことが容易な仕事を行い、独立自営の度合いが薄いもの

 国土交通省では2019年3月に平成30年(18年)度の「テレワーク人口実態調査結果」を発表している。これによると、テレワークの認知度は前年度の24.8%から29.9%に上昇、その割合は雇用型で前年度の14.8%から16.6%にアップ、自営型で22.2%から24.0%へとアップしている。また、興味の高まりにつれテレワーク希望者も39.8%から44.7%へと上昇している。

 これはアンケート調査による自己申告なので、実情よりも高い数値が出ているという指摘もあるが、一連のキャンペーン効果により認知度が高まっており、実際に企業側が推進していることもあってテレワーク該当者が増加していることは確かだろう。米国での状況もさまざまな調査報告があるが、何らかの形でテレワークを実施しているのは全労働者の2割から4割程度とされており、国内外でそれほど大きな差はないと考えている。

 テレワークといえば、かつては在宅勤務やサテライトオフィスが中心だったが、現在注目を集めているのは前出の雇用型における「モバイルワーク」や「施設利用型勤務」だ。モバイルワークは働く場所を選ばない仕組みで、自宅に限らず、カフェや共用スペースを積極活用して作業を行う。近年遠隔でミーティングや業務連絡を行うツールが多数登場しており、例えば手持ちのiPadのようなタブレットを会議システムに接続し、カフェからミーティングを行うような事例がある。

オフィス、自宅、カフェの3拠点を結んだ電話会議サービスを提供するCisco Webex Meetings。資料共有による共同作業が可能。またカフェのような公共空間では背景をぼかす機能もある

 また近年にわかに脚光を浴びつつあるのが「施設利用型勤務」で、「共同利用型オフィス」の活用だ。代表的なものは日本国内ではソフトバンクが展開している「WeWork」が挙げられる。

 ソフトバンクでモバイル決済サービスを提供しているPayPayは、営業を除く主力スタッフ全てがWeWork内で作業しており、「オフィス利用の効率化」「迅速なサービス展開」の両面から格好の活用事例となっている。

 スタートアップ企業や企業内の特定プロジェクトが一時的にこのような共同オフィスを活用するケースは非常に多く、オフィスビルを運営管理する不動産事業者や地域活性を狙う自治体関係者がビルのフロアを借り上げ、共同利用型オフィスとして提供する事例が増えつつある。

 実際の活用状況については、国土交通省が各地域でのヒアリング内容を資料として公開しているが、自宅や本社機能を離れて好きな場所で働く環境は充実しつつある。

ソフトバンクが日本国内で推進するWeWork。8割の導入企業がその効果を実感しているという

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