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メディアドゥの社長はなぜ、マイノリティーの登用を恐れないのか 情シス部長に50代半ばの女性、ベトナム人採用の背景(4/5 ページ)

» 2019年09月13日 08時00分 公開
[やつづかえりITmedia]

新入社員を社長の生まれた村に連れて行く理由

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和田: 藤田さんは、「一般的な会社経営のやり方」というものにとらわれていないようですが、いわゆる昭和的な組織構造の会社にお勤めされた経験はありますか?

藤田: ないんです。だから日本的な経営のDNAがなくて、昔からイシュー(課題)型なんです。「私たちは何をしなきゃいけないのか」――というところから最適な戦略を考え、実行します。

和田: それでも、ヒエラルキー型の職場で生きてきた親世代の影響は無視できないと思うのです。藤田さんがそういう考え方をされるようになったのはなぜでしょうか。

藤田: 母親の影響が大きいように思います。81歳の今もとても若々しくて活動的な人なんですよ。とても頭が良くて、父親との関係はすごく対等でした。三歩下がってついていくというのでもなく、かかあ天下でもなく、とてもバランスがとれた家庭でした。

 だから、私には子どもの頃から「女性は男性を支えるもの」という発想がありません。後ろで支えたいという人もいるし、どんどん前に出ていきたい人もいる、それはどちらかというと個々人の考え方だと思っています。

和田: ひとり一人をリスペクトするという考え方は、お母さまの影響が大きそうですね。お父さまはどういう方だったのですか?

藤田: 父は亡くなって24年になりますが、村の助役をやっていました。ずっと公務員として村のためにがんばっていましたね。ただ、私は高校から一人暮らしを始めたので、一緒にいたのは中学までです。

 私が23歳で会社を立ち上げた時期に父が他界しまして、私は父の代わりに母を支えなければいけないと思い、母親との距離を縮めたんです。それ以来、父が社会においてどういう役割を担っていたのかといった話を母から聞くようになり、母のフィルターを通して父親のことを理解していきました。それは、私の経営にかなり影響を与えていると思います。

和田: どんな影響ですか?

藤田: やはり社会に貢献しなければならない、ということですね。父は本当に利他的な人間でしたので。

和田: そういう背景があって、今の藤田さんがあるわけですね。

藤田: そうなんです。私という人間が何をイシュー(課題)としているのか、なぜそういう考えに至ったのか――。そのプロセスを社員にも理解してもらうことはとても大切だと考えています。これは言葉で説明しても分からないので、経験から感じてもらうことが大事です。

 そのために、新卒の社員は全員、私の生まれた徳島県木頭村で内定者研修をするんですよ。そこでメディアドゥの歴史と戦略を話すだけでなく、親や親戚を紹介して私の実家で一緒に食事をしたりして、私が大切にしているものを見てもらうんです。

和田: 社員の方が藤田さんの人となりを知ることが、重要だということですか。

藤田: そうです。特にこれからの時代、人は給料だけではなく、納得感がないと動きません。会社として何を正しいことと判断するのか、その背景には創業経営者の思い、つまり哲学があるわけですが、その哲学が理解されていることが納得につながります。

 だから、創業経営者が自分について「包み隠さず社員に開示すること」がマネジメントにおいてとても重要です。それは私が社長である今しかできないことですから、木頭村での内定者研修は新卒一期生からずっとやっています。

こんな社員は実績があっても「絶対に入れない」

和田: 新卒の方にはそうやってじっくりと伝えていくことができますが、中途採用の方についてはどうですか。そもそも「PL(損益計算書)にばかり目を向ける人を入れない」ということも重要だと思うのですが、ほかに採用の時に気を付けていることはありますか。

藤田: 最近特に気を付けているのは、「パワハラ・セクハラ癖のある人を絶対に入れない」ということです。会社を成長させていくには、目指す事業規模に見合った経験をした人に入っていただく必要がありますが、一般的には規模の大きな会社ほどヒエラルキー型の文化を持っています。

 しかし、その中で活躍してきた方々の中にも、縦社会の論理で上からモノを言う人と、周りの人たちを大切にして自分のプレゼンスを上げてきた人とに分かれるものだと思います。実績だけではなく人間性をきちんと見抜いて、パワハラやセクハラをしないような人を入れることが大事だと思っています。上層部の人を入れるときは特にそうですね。

和田: それはとても大事なことですね。

藤田: もう1つ、PL脳にならないためにどうしているかというと、やはり日々の業務の中でメッセージを伝えることです。

 例えば、ある会社を買収したとき、その会社には5年や10年続けて働いている派遣社員がいたんですね。PL的に考えると、契約を解除しやすい派遣社員を雇うのはメリットでしょう。でも、長く勤めるのはどういう意味かと考えると、それはおかしい。社員でないと、社員総会や社員向けのイベントに参加する機会が得られません。その状態でどうやってメディアドゥらしさや私らの考え方を伝えていくのでしょうか。

 そこで、「長期で勤めていただくことが会社にとって本質的に必要なのであれば社員として採用しなさい。長期である意味がないのであれば別途アルバイトを採用することなどを考えなさい」と言いました。そうすると、買収された側の会社には気付きが生まれます。

和田: いろいろな会社を買収されていますが、それによって会社の文化が変わってしまうという危険もありますね。

藤田: そうならないために重要なのは、まず経営者である私が芯を持ってゆらがないことですね。もうひとつは、その芯というものが分かりやすく伝えられるということです。そのため、ビジョンやバリューのワーディングがみんなに響きやすいものになっているかということも、とても大事なことだと考えています。

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