黒いアドレスを追え 流出仮想通貨の追跡はこう行われる(3/3 ページ)

» 2019年09月19日 15時15分 公開
[斎藤健二ITmedia]
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犯罪者とのイタチごっこ

 ただしこれで仮想通貨のAMLが実現したかというと、まだ道は遠い。仮想通貨には、ビットコインをはじめさまざまな種類があるが、それぞれブロックチェーンの仕様は異なり、追跡するにはそれぞれの仮想通貨ごとにツールを開発していく必要があるからだ。

 現在は、ビットコインおよび仕様が似ているライトコインへの対応を進めている。12月には、送金の流れを可視化してチェックできるところまで開発を進める計画だ。さらに、20年6月には、ビットコインに続いて時価総額の大きい、イーサリアムへの対応を目指す。現在のところ、国内の取引所で扱える通貨を中心に13種類で利用できるようにしていくという。

Bassetが対応を予定している仮想通貨

 さらに根本的な課題もある。ビットコインでは、どのアドレスからどのアドレスにいくら送られたのかが公開されているが、この部分を匿名化してやりとりできる仮想通貨も存在しているからだ。いわゆるプライバシーコインと呼ばれるもので、モネロやジーキャッシュなどが有名だ。イーサリアムにもこの技術が組み込まれ、匿名での送金も可能になっている。

 このような通貨の場合、送金の流れを追うことは技術的に不可能だ。それでも「例えば、大量にモネロからコンバートされたら、もしかしたら資金洗浄したい、現金化したいためではないかと推論できるかもしれない」(竹井氏)

 もともと国を信用せず、独自に流通できず通貨を作ろうという発想から始まった仮想通貨だけに、プライバシーを確保することへの開発者の思いは強い。「プライバシーは悪いとは思っていない。敵とみなしているのはマネーロンダリングだ」と竹井氏。

 さらに、最近ではブロックチェーンを使わない「オフチェーン」と呼ばれる送金の仕組みも開発が進んでいる。より高速で低コストな送金の仕組みとして、またブロックチェーンのトランザクション容量が一杯になることへの対策の一環だ。ブロックチェーンの外で送金処理を行い、ある程度の処理数がまとまった時点でブロックチェーンに書き込む。ブロックチェーンを基盤層として、その上で動くため「レイヤー2」などとも呼ばれる。ビットコインでは「ライトニングネットワーク」などが有名だ。こうしたレイヤー2での取引も、個別の送金履歴がブロックチェーンに残らないため、送金を追うことが難しい。

 さらに、イーサリアム上でプログラムされたスマートコントラクトを使った送金についても課題が残る。オーガーやバイナンスコインなどのトークンがこれに当たる。「例えば、イーサリアム上のトークン(ERC20トークン)などは、スマートコントラクトで動くので、プログラムの分析が必要になる」(竹井氏)

 高度化する技術と、それを駆使する犯罪者。匿名化技術の進展は、AMLをますます困難にする一方で、犯罪者組織のミスを突くチャンスはあると竹井氏は話す。

 「せっかく資金洗浄したのに、そのあと真っ黒いアドレスを再利用してしまい、汚れたお金だということが分かってしまうこともある。犯罪者もグループで末端のメンバーがいる。どこかで一人が間抜けなことをすると足がつく」

 ある仮想通貨取引所幹部は、ハッキングによる流出自体を100%防ぐことは不可能だと話す。であれば、流出したあとの資金洗浄を業界全体で食い止めることで、犯罪を抑制することが必要だ。Bassetと似た送金経路を追跡するツールを開発する企業は海外にはあるが、国内ではBassetが先行しているという。業界全体でのセキュリティの強化が期待される。

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