このようにアトキンソン氏の新著には、これからの日本の進むべき道を考える上での指針となるような興味深い考察が随所に含まれているのだが、個人的に印象に残ったのは、世界各国の都市災害を研究してきた目黒教授がおっしゃった以下の言葉である。
『地震や豪雨などの災害というのは、その被災地がもともと抱えていた社会的課題を、短時間で一気に最悪の形で浮かび上がらせる』(P.245)
例えば、貧しい人が多くて不衛生な地域で、大地震が起きれば、家は倒壊して、貧しい人はさらに貧しくなる。避難生活でトレイや下水の問題も出てくるので、さらに不衛生な環境になる。つまり、災害復興というのは、最悪の形で浮かび上がった地域の社会的課題にどう立ち向かうのかに尽きるわけだ。
確かに言われてみれば、これは今回の災害にも当てはまる。停電が長期化したことについて、東京電力は「経験したことのない倒木や電柱倒壊のせい」と説明した。これは責任逃れの言い訳ではなく、整備されていない山での倒木などの処理は極めて難しいのだ。
停電が長期化した房総半島の山間部は「放棄山林」が多いという問題を抱えていた。それが台風で一気に最悪の形で浮かび上がったのが、「長期停電」だったというわけだ。
江戸幕府を壊滅に追い込んだ前回の南海トラフ、首都直下型地震から165年が経過している。南海トラフ沿いの巨大地震は100〜150年周期に発生していることが分かっているので、同様の巨大地震は今この瞬間に起きても不思議ではない。
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