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東京のIT企業が北海道に工場を作るなら、どう資金を調達する? マネーフォワードが新会社を作る狙い

» 2019年09月26日 16時16分 公開
[斎藤健二ITmedia]

 「個人的に多くの企業から資金調達に関する相談が来ていた。限定的な範囲でアドバイスするよりも、ちゃんと継続的に支援するほうが付加価値の高いサービスを提供できるのではないか」

 マネーフォワードの前CFOである金坂直哉社長は、新会社「マネーフォワードシンカ」設立の背景をこう説明する。金坂氏は、2014年にマネーフォワードに入社し、その後CFOとして複数回の資金調達や、IPO(新規株式公開)、公募増資などを手掛けてきた。それらの経験を通じて得られたノウハウやコネクションを、サービスとして提供しようというのが新会社設立の狙いだ。

マネーフォワードシンカの金坂直哉社長

 支援先として想定するのは成長企業だ。「事業規模を大きくせずに黒字で運営している企業ではなく、大きなビジョンや事業展開を考えて、リスクマネーを調達し、IPOを目指している会社」だと金坂氏。既に10社にサービスを提供しており、IT分野だけでなく、モノ作りなどリアルなビジネスを行っている企業も対象にする。

 20〜30年前であれば、起業のための資金は社長が蓄えた資金か、自宅などを担保に入れて銀行から借り入れを行うのが普通だった。しかし、昨今は引退した起業家などがいわゆるエンジェルとして創業期(シード)の資金提供を行うことも珍しくない。IT分野を中心に、ベンチャーキャピタル(VC)の存在感も増してきている。

 さらに、製品のコンセプトを提示し、前払いの形で消費者から開発のための資金を集めるクラウドファンディングや(記事参照)、運転資金の確保のために請求書を早期に現金化するファクタリングサービス(記事参照)も増加してきている。

 このように資金調達の手段は多様化してきているが、だからこそ最適な資金調達方法はさまざまだと金坂氏は言う。「そこを考えるには、知見と経験の組み合わせが必要だ」

D2C企業にも注目

 一般に、資金の使い道が人件費やプロモーション費用中心となるIT分野の企業とは違い、工場などが必要な事業の資金調達額は大きくなりがちだ。その場合、増資などの方法ではなく、土地や建物を担保に入れた銀行融資を使う。昨今では、そんなリアルビジネスとITテクノロジーを融合させたビジネスモデルはD2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)と呼ばれ、欧米でユニコーン企業が続出している。

 金坂氏は、IT関連だけでなく、こうしたモデルでの資金調達ノウハウにもチャンスがあるとみる。「例えば、北海道に工場を作りたい、となった場合、北海道の地銀に融資の相談をするのがいい。でも、東京のIT企業は地銀との接点がない。しかし、マネーフォワードは北海道の北洋銀行から出資を受けていたり、事業上の関係がある。支援先の企業を各地の地銀に紹介するなど、ネットワークを企業に提供していきたい」

 昨今のスタートアップに出資するVCの中には、経営指導からネットワークの提供、さらに人材の採用支援も行うなど、充実したハンズオンを特徴としているところも出てきている。提供する内容は似ている部分もあるが、「VCはVCで立場がある。100%経営者の立場ではなく利害が対立することもある。マネーフォワードシンカでは経営者側に立ってサービスを提供する」(金坂氏)

 マネーフォワードシンカの事業モデルとしては、稼働時間などに応じた料金と、調達額に応じた成功報酬モデルの組み合わせになる。企業側のニーズは大きいと見ており、「100社くらいまでサービスを広げたい」(金坂氏)と意欲を見せた。

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