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アジア諸国より企業のIT化が遅れている――DX後進国ニッポンを救う方法とは若きIT識者3人が鼎談(5/6 ページ)

» 2019年09月30日 08時00分 公開
[吉村哲樹ITmedia]

異種格闘技化するビジネス環境を生き抜くためには

岡本: 最近強く感じるもう1つの変化が、ビジネスが「異種格闘技」のようになってきたことです。例えば最近の金融業界では、流通や通信といった異業種からの参入が相次いでいます。このようにまったく未知の業種・業態に新規参入する際には、ノウハウを持つ人材が社内にいませんから、外部から連れてこなくてはなりません。

 そういう人材を社員として新規採用するのも手ですが、一方で新規ビジネスは失敗する確率が高いですし、ビジネスの立ち上げと同様に撤退の判断スピードも年々早くなっていますから、採用した人材があっという間に不要になることも十分にあり得ます。

 そこで、こうした人材を社員として採用する代わりに、高度なスキルとノウハウを持つフリーランス人材を集めてチームを組めば、無用なリスクを抱えることなく素早くビジネスを立ち上げられます。年々早くなる一方のビジネスのスピード感に追随していくためには、こうしたやり方で流動的かつスピーディーに体制を構築する必要があります。

成田: フリーランスの方に入ってもらう以外にも、他社に所属している人に副業で一時的に入ってもらうという手もあります。実際にメルカリでも、他社の社員として働きながら、副業として弊社の仕事に携わっている方が何人もいます。また逆に、メルカリの社員が副業で他社の仕事を手伝うことも普通に行われていますし、むしろ会社としてもそういう働き方を積極的に推奨しています。

 なぜ、メルカリが社員の副業を推奨しているかというと、大きく分けて3つの理由があります。1つには、社員が社外でアウトプットすることによってスキルアップしてほしいということ。2つ目は、それによって自身の市場価値を上げてほしいということ、そして3つ目は、社員が社外で情報発信することでより情報が集まるようになるので、どんどん情報発信してほしいという思いがあります。退職に関してもまったくネガティブに捉えていなくて、辞めていく人間に対しても「いつでも戻ってきてくださいね」というスタンスをとっています。

中野: 確かに、メルカリを辞めた人がメルカリのことを悪く言うところを見たことがなくて、これはすごいことだと思います。「いつでも戻ってきてください」というのも、まさに人材の流動性を体現するかのようなスタンスですよね。

 ただ、人材の流動性が高まるということは、優秀な人材を採りやすくなると同時に、優秀な人材が出ていきやすくなるということでもあります。つまり「人材を囲い込めなくなる」ということですから、これを好機と捉える企業がある一方で、優秀な人に「ここで仕事をしたい」と思わせるような環境を用意できない企業にとっては、逆に厳しい時代になっていくのかもしれません。

 会社が人を選ぶ時代から、人が会社を選ぶ時代へと変わっていくわけですから、経営者が発想を転換できない企業は今度人材の確保に苦労しそうですね。

岡本: これからは、会社が打ち出すビジョンやミッションに共感する人たちが外部から集まってきて、チームを組んで仕事に取り組んで、それが終わったらまた去っていく――というような働き方が増えてくるのではないでしょうか。新興企業の多くはビジョンやミッションを明確に打ち出していますから、こういうやり方でも優秀な人材を集めやすいでしょう。一方、日本の大企業のほとんどは、ビジョンやミッションが何だかふわーっとしているんですよね。

中野: しかも仕事を回す仕組みがきっちり出来上がっているので、誰でも回せるようになっている。

岡本: プロフェッショナル人材の目には、そうした仕事は魅力的に映らないんですよね。本来は大企業こそが「社会をこう変えていきたい」という長期的なビジョンを明確に打ち出すべきだと思うのですが、サラリーマン社長だと、どうしてもそういう発想が生まれない。ビジョンが打ち出せないので、そこで働きたいと望むプロフェッショナル人材も集まらない……何だかいろんな歯車がうまくかみ合っていないように見えます。

 高度経済成長期に一代で大企業を築き上げたような人たちが引退して、二代目、三代目へとうまく世代交代できた会社は強さを発揮し続けていますが、そうではないサラリーマン社長が率いることになった会社は、そこそこの結果は残していても、急速な成長はもはや期待できなくなっています。

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中野: 大企業は、ずるずると負けていくんですよね。いきなりがくっと大幅に業績が悪化すると、「さすがにこれはまずいぞ」と皆が危機感を覚えるのですが、前年対比で数%ずつ徐々に落ちていく分には、いろいろと理由をこじつけて「見て見ぬふり」ができるんですね。

 でも、先ほどおっしゃったように、現代のビジネスはまさに異種格闘技戦で、ある日突然、全く別の競技のチャンピオンが参入してきて、あっという間に市場を席捲してしまいます。そういうリスクを常に想定した経営が、これからの企業には求められるのだと思います。

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