消費税は弱者に厳しいというウソ 〜逆進性という勘違い〜専門家のイロメガネ(6/8 ページ)

» 2019年10月31日 08時10分 公開
[中嶋よしふみITmedia]

軽減税率と逆進性、勘違いの共通点

 筆者は軽減税率について、「なぜデンマークは、消費税が25%でも軽減税率を導入しないのか」で、いかにトンチンカンな仕組みであるか指摘した。EUで導入されているこの仕組みは、経済成長に悪影響を与えかねないから他国は導入すべきでないと警告をしているほどだ。日本でも多数の経済学者と政治学者が連盟で導入すべきではないと提言をしている。

 軽減税率の問題は多数あるが、10%に引き上げる一方で食品などの一部は8%にとどめるという、消費税の仕組みの範囲内で整合性を取ろうとすることが一番の問題だ。結果的に複雑な税制となり、小売業・飲食業の現場では膨大な手間がかかる上に低所得者への対策にまったくなっていない。

 消費税は一律10%を適用して低所得者には別途お金を支払うなど、消費税の枠の外も含めて全体でバランスを取ればいい。この考え方は逆進性も同様だ。

 消費税による逆進性が問題であれば、消費税以外の税金や保険料も含めた「負担と給付」全体でバランスを取ればいい。逆進性を過剰に問題視すれば、世紀の悪法である軽減税率をなくすことはできない。加えて、消費税と引き換えに、現役世代だけが負担する社会保険料が大幅に引き上げられる。高齢者が消費税に反対するのは当然だが、現役世代は軽減税率と社会保険料の引き上げに反対すべきだ。

 18年の消費税の税収は約17.6兆円、社会保険料の収入は70.2兆円と4倍もの差がある。そして社会保険料の多くは現役世代が負担して、高齢世帯に給付される。どちらの影響がより大きいか、そして消費税と社会保険料、どの形で負担すれば現役世代にとって得か、本来は説明するまでもないはずだ。

 消費税は逆進性が強く弱者に厳しい、だから消費税を引き上げるべきではないという勘違いは、結果的に社会保険料に跳ね返り、若者世代、現役世代の首を絞めて世代間格差を広げている。

 現状では、負担だけではなく給付の段階でも高所得者に強く累進性が働いていると「二重の累進性」を指摘したが、これらを考慮しても消費税の逆進性は大問題であるといえるのか? ということになる。

 消費税には逆進性があるという話は、だから「軽減税率が必要」「消費税の引き上げは辞めて社会保険料を引き上げよう」「法人税を上げろ」「金持ちに課税しろ」という話へと展開していく。軽減税率がろくでもないことはすでに以前の記事で書いた通りだが、社会保険料の引き上げは現役世代を直撃して、最も負担している世代をさらに痛めつける形になる。

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