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マツダCX-30の発売と、SKYACTIV-X延期の真相池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)

» 2019年11月05日 07時07分 公開
[池田直渡ITmedia]

 マツダは、欧州ではトップエンド付近のパンチを欲しがるだろうからということで、SI領域の性能向上のためにハイオク仕様にした。利得は決して多くないし、エンジンの本来の狙いと違うが、そこはマーケットの好みというものもある(17年9月の記事参照)。

SKYACTIV-Xのガソリンエンジン

 当初のマツダのプランでは、日本は、現実問題として極端な高回転という限られた状況での性能向上のためにハイオク仕様にするのは、ユーザーに利得が少なすぎると思っていたようだが、グローバル試乗会での、欧州仕様のSKYACTIV-Xの評判が極めて高かったため、ちょっと考えを変えた。

 高回転域を「実利少なし」と決めつけて本当に良かったのかと。実利はともかく心情的にはそこも大事なのではないかと。ただ、どう考えてもそのためだけにハイオク専用仕様にするのはユーザー本位ではない。高いハイオクを入れて、9割以上の運転状況下では不得意なノッキング的燃焼をさせておきながら、メリットは本気でぶん回した時だけということで本当にいいのか。

 社内で侃侃諤諤(かんかんがくがく)があった末、結論は、マルチオクタン価対応ということになった。カタログなどへの表記としては「ハイオク推奨(レギュラー使用の場合最大出力などが低下しますが、故障の原因などにはなりません)」的な表記になるらしいが、おそらく役所のフォーマットなどの問題で、実際はハイオクに対して、レギュラーが下位互換的なものではなく、レギュラーでもハイオクでも好きな方で使える。例え利得が少なくでもトップエンドの吹け感にこだわりたい場合はハイオクを入れる。そのときは、欧州仕様に遜色ない高回転域のフィールが得られる仕様だ。それを急きょ追加開発した。

 どうやら技術的には難しくなかった様子だが、届け出数値が変わってくるため認証はやり直し。そこの期日短縮はできない。だから発売日が遅れた。以上がSKYACTIV-X発売延期の真相だが、まあやはりやり方としてはうまくない。

 Mazda3 のデビュー時に、ちゃんとG、D、Xの各エンジンを用意しておけば買い控えは起きなかったはずだし、もっといえば、売れ筋本命が分かりきっているCX-30からリリースすべきだった。マツダのリソースでは手が回りきらないことは理解できるが、商売としてはうまくないのは事実だ。

 よりよいエンジンや、よりユーティリティの高いクルマが、そう時を経ずに出ることが分かっていれば、ユーザーは、自分の選択に自信が持てなくなる。仮に追加モデルが予算的に届かなくても、決断し難い。そんなつまらないことで期待の第7世代の出足をくじき、ハイエナ系メディアに「売れない、売れない」と書かれ、現場は現場で自信を喪失する。ちなみに当初の出足は悪かったものの、かなりリカバーしてきており、特に大失敗という結果にはなっていない。

 そんな無責任でネガティブなうわさの火消しに苦労するくらいなら、やらなければならないことがいっぱいあるのではないかと思う。

リアから見たCX-30

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