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『ろくでなしBLUES』作者・森田まさのりが50歳を過ぎてから「M-1グランプリ」に挑戦した理由森田まさのりの肖像【中編】(4/5 ページ)

» 2019年11月09日 08時00分 公開
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担当編集者に言われた衝撃の言葉

森田: あのときね、僕らと武井さんたちデスペラードと、焙煎まめという漫才コンビの3組でM-1みたいなことをやったんですよ。2本ずつネタをやって誰が優勝するかっていう「MM-1グランプリ」をやりました。それで僕らは優勝させてもらったんですけど、まあまあ下手でしたな。声が小さいっちゅうのがやっぱりね。

唐澤: 細かいですけど、もう一個ついてるMはなんだったんですか?

森田: Morita Masanori-1です(笑)!

唐澤: すみません気付かなくて。タカハシさんは森田さんをずっと追いかけていて、先生の意外な面を見てしまったり記憶に残っていたりしたことってありますか?

タカハシ: それこそ今日1個言おうと思っていたエピソードは、この本で伊集院光さんと対談をしているくだりがあるんですけど、編集者の2人と、唐澤さんが帰られて、僕も「お疲れさまでした」と言って帰ろうとしたんですけど、森田先生が「タカハシさんちょっと残ってください」って言われたんです。何かお話があるのかなと思って、お三方を見送って、残ってスタジオに戻ったら「ああ緊張した」って森田先生がおっしゃって。もう一人になるのが心細すぎて、僕を残して「とりあえず話を聞いてくれっ」て1時間ぐらい。そういうことがありましたね。

森田: 僕はあのとき、伊集院さんに渡すお土産を用意していたんですよ。伊集院さんは野球が好きで、野球漫画もたくさん集めてらっしゃるというので、伊集院さんが読んだことはないであろう野球漫画を、まんだらけで探しだしてきて用意していたんです。それで対談中、机の横に置いていたんですけど、緊張して渡すのを忘れちゃったんですね。「ああどうしよう、どうしよう」と思って。それからどうしたんでしたっけ。

タカハシ: そのあとに伊集院さんともう1回飲む機会が。

森田: もう1回飲みに行ったんです。対談後に「連絡先を交換しましょう」って言ってもらえたんで、LINEを交換させてもらっていたんですね。それでLINEで「お土産をお渡しするのを忘れていました」って言ったら「じゃあ飲みましょう」と言ってもらえて、それで飲みに行って、そのときに渡したんです。写真も撮ってもらいました。

タカハシ: もうずーっと伊集院さんがしゃべっているのを「ハイ」って聞いている。そのとき「全然しゃべれなかったー」って帰りにぼそっと言いながら。

森田: 伊集院さんのラジオってみなさん聞いていますかね。伊集院さんってやっぱりすごいんですよ、しゃべりが。あの日もそうでしたけど、話を組み立てているのかどうか分からないですけど、たぶん自分が発した言葉に反応してしゃべっているんですよね。オチまで考えているような気はするんですけど、そこに行くまでにあれこれ面白いことを思い付いたら、最初考えたことを捨ててまで思い付いたことをしゃべっている感じなんです。 

 全然オチと違うところにいくこともきっとあるんでしょうけどね。あれは他のDJさんにはできないんじゃないですかね。あんな『しゃべりの天才』というのはいないと思います。僕がしゃべりで一番尊敬している人ですね。

唐澤: 『べしゃり暮らし』の主人公の圭右(けいすけ)もアドリブの天才という設定ですね。いまのお話を聞いていても、やっぱり芸人さんのいろんな良さがあると思うんですけど、アドリブができることに惹(ひ)かれるんですか?

森田: 僕が一番できないのがアドリブの部分なので、やっぱり惹かれますね。しかも面白いことがちゃんと言えないといけないわけじゃないですか。

唐澤: 森田さんは、僕からすると非常に謙虚な方だなというのがあるんですけど、事前の準備は入念にしてくださって、伊集院さんの質問を21個も自分で作られていました。

森田: 「理想の死に方は何ですか」って。

唐澤: これは本に書かれているので読んでください。何でしょう。この努力みたいなことっていうのは、森田さんの中では当たり前なんですか? アドリブではないですけど、事前準備や漫画で言えばリサーチを欠かさないですものね。

森田: リサーチを欠かさないというのは、昔は行き当たりばったりで描いていたんですよ。それこそジャンプの『ろくでなしBLUES』『ROOKIES』は、ほんとにもう来週のことは来週考えるみたいな感じで、全然先のことを考えないで描いていたんです。そしたら、これは有名な話ですが、若手の担当編集者から「森田先生はインプットが足りないからな」と言われたことがあるんです。

唐澤: 何年目の人でしたっけ?

森田: 1、2年目の人ですね。『ROOKIES』をやっている頃だから、僕が漫画家になって12〜13年目ぐらいのときだったんじゃないかな。

唐澤: その(担当編集者の)人が「ROOKIES」ですよ(笑)。

森田: そのせりふを言われた店のテーブルの場所まで覚えています。吉祥寺のルノワールのあの窓際の席まで出てきます。(その編集者は)のちのち副編集長になる男なんですけどね。「先生はインプットが足りないからな」って、俺もやっぱり思い当たるとこがあってね。高校卒業してすぐこの世界に入って何にも時間がない。だからインプットがないというのは分かるので、描けることといったら学生生活とか。

 就職したこともないし、バイト経験もほとんどない。合コンとかもしたことがないし。描けることといったらまあそういうことだけなので、インプットが足りない。だから今度の作品を描くときはしっかりリサーチや取材をして描こうと。その言葉を言ってもらったおかげなんですけどね。そういうふうにできたのは。

唐澤: それで言うとM-1出場というのもリサーチとも言えないことはないですよね。

森田: 『べしゃり』を描いていなかったらたぶん出ていないかな。でも漫才師さんというのは描いてなくとも憧れではありました。僕は人を笑わせるのが好きだし、出たかったかもしれないです。誰か漫画家さんが先にM-1に出たら絶対悔しいですからね。

唐澤: 先にやりたかった。

森田: はい。

唐澤: 負けず嫌いですよね。

森田: 嫌でしょ、他に誰か出たら。俺らのあとで『キン肉マン』のゆでたまごさんが出たそうにしているんですけど、勘弁してくれよと思いますね。

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